リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
伝統を放棄して180度の方向転換。
“革新派”A・ビルバオの魅力。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byMutsu Kawamori
posted2011/12/15 10:31
バルセロナに引き分け、セビージャに勝利し……と注目を集めているアスレティック・ビルバオ。バルセロナと引き分けたという戦果は、戦術マニアとされるビエルサ監督の面目躍如といったところか
シャビをも魅了した新生アスレティックの真っ向勝負。
しかし、舵は切られた。決めたのはソシオ。昨季終了後の会長選挙で、前チリ代表監督ビエルサを連れてくると約束したクラブOBのウルティアを、彼らは選んだのだ。
開幕直後、ぎこちなさを隠せないチームは何度もつまずいた。それを見て、転向は失敗だったと悔やんだ人もいただろう。だがアスレティックはいま実に魅力的なチームになっている。なにより試合が滅法面白い。11月6日に行われたサン・マメスでのバルサ戦では王者に真っ向勝負を仕掛け、互角に戦い、観客を大いに喜ばせた。「ピッチの中でも、子供の頃に戻ったかのように楽しめたよ」とコメントしたのは、2-2という不本意なスコアに甘んじたバルサのシャビの方だ。
また、その後のセビージャ戦でもアウェイゲームに縮こまることなく、どんどん前へ出るサッカーで強敵を制した。現時点で、安定度では昨季までに劣るけれど、強さを感じさせる。リーガの結果には依然ばらつきがあるが、ELと国王杯は無敗である。
方向転換成功の根底には監督と選手の相性の良さが。
それもこれもビエルサとアスレティックの組み合わせが、予想どおり“であいもの”だったおかげだ。ビエルサのサッカーに求められる運動量、アグレッシブな姿勢、負けん気、規律、優れた技術は、そもそもアスレティックに属する選手の特長。うまくいかないわけがない。ただ、突然の方向転換にも拘わらず、シーズン前半戦のうちにここまで仕上げてきたのは意外だった。監督と選手の相性が想像以上に良く、わずかな期間で信頼関係が築かれたのだろう。
こんなエピソードを聞いた。
ある日の練習でイニゴ・ペレスがゴールキーパーと衝突した。流血した前者がロッカールームへ引き上げようとすると、ビエルサはその足を止め、「続けられるか」と聞いた。ペレスの返事は「監督が望むなら」。するとビエルサはこう返した。
「心配するな。君がここで死んだら責任はわたしがとる」
さすが「変人」と呼ばれるビエルサだが、彼には非常に誠実な一面もある。開幕前、監督に構想外を言い渡されていたペレスに試合出場のチャンスが与えられるようになったのは、この一件がきっかけだという。