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自己犠牲に苦しむ2年目のビジャ。
“バルサ9番”の歴史を変えられるか? 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2011/12/02 10:30

自己犠牲に苦しむ2年目のビジャ。“バルサ9番”の歴史を変えられるか?<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

新加入の昨季は34試合で18得点を記録したビジャ。リーガ&CLの2冠に大きく貢献した

バルサのFWが背負わされてきた受難の歴史。

 公式戦22試合を終えての8ゴールは昨季と変わらぬペースだが、先発出場の頻度が減った最近の9試合では僅か1ゴールしか決めていない。生粋の点取り屋である彼がそのような現状に満足しているとは思えないが、これまで当の本人は文句1つ言わず、与えられた役割を黙々とこなしている。

 過去にグアルディオラの下でプレーした「いわゆる9番(=FW)」たちはみなそうだった。メッシという絶対的なエースがいる現在のバルセロナでは、これまで他チームで主役としてプレーしてきた彼らとて、みな脇役に徹しなければならない。人一倍エゴが強いストライカーという人種にとって、それは相当の苦行である。

 そのため、彼らはみな最終的に裏口からクラブを去っていった。戦力外の立場から一転して残留したサミュエル・エトーは、プロとして3冠獲得に大きく貢献したものの、シーズン終了後には「フィーリングが合わない」として放出された。エトーとのトレードで加入したズラタン・イブラヒモビッチは“哲学者”グアルディオラのメッシ贔屓に耐えきれず、僅か1年で退団。同年にはパフォーマンスの低下が著しかったティエリ・アンリも静かにMLSへと去っている。今夏にはビジャの加入で出場機会が激減し、伸び悩んでいたボージャン・クルキッチが再生の場を求めてセリエAへと移籍していった。

それでもグアルティオラはビジャを手放さない。

 しかし、ビジャが彼らと同じ道を辿るとは思えない。3トップのどこでもプレーでき、メッシとの連係も問題なくこなし、自らもゴールを奪える彼ほど、バルセロナの3トップに適したFWはいない。悪童のイメージを持つエトーやイブラとは違い、寡黙で和を重んじる性格もクラブのカラーにマッチしている。

 その点はグアルディオラも認めている。彼はこれまで見切りをつけた選手とは対話を避ける傾向があったが、ビジャとは頻繁にコミュニケーションをとっている。冒頭の報道があった数日後には、監督室に呼び出して信頼の意思を伝えたと聞く。また、先日行われた会見でビジャの重要性を問われた際には次のように答えている。

「指導者として今後もキャリアを続ける中で、またダビのような選手と巡り合いたい。彼は代表の歴代得点王であり、ワールドカップとユーロを制し、過去に所属したどのチームでもあらゆるチームメートが自分のためにプレーしてきた。それが今は監督とチームが求める役割に適応すべく、自身を犠牲にしてくれている」

【次ページ】 ビジャの高い攻撃能力はバルサの重要な武器になる。

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