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ハミルトンのドイツGP優勝は想定内!?
“ロケットオレンジシャツ”の矜持。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2011/07/28 10:30
ドイツGPで優勝してチームスタッフらにもみくちゃにされるハミルトン。彼の正面と右斜め前方にいるふたりのスタッフが着ている派手なオレンジ色(赤色?)のシャツが“ロケットオレンジシャツ”だ
決勝レースを5時間後に控えた日曜日の朝。
第10戦ドイツGPが開催されているニュルブルクリンクは冷たい雨が路面を打ち付けていた。サーキットに入場する者たちは皆、雨をしのぐ傘はもちろんのこと、防寒服を身にまとっていた。
そんな中、ホテルを出発するマクラーレンのスタッフたちは皆、Tシャツをバッグの中に収めていた。それは“ロケットオレンジシャツ”と呼ばれている、レースで優勝した場合のみ着用することになっている、マクラーレンが自ら準備したTシャツだった。
これは現在メインスポンサーのボーダフォンがチームへのスポンサードを始めた'07年から開始されたもので、サーキットの現場で仕事するスタッフだけでなく、ファクトリーで働くスタッフにも手渡され、優勝したグランプリ直後の月曜日にロンドン近郊のウォーキングにあるマクラーレンのファクトリー「テクノロジーセンター」で開催される全体ミーティングには、全員がこのロケットオレンジシャツ姿で集まるという。
フェラーリとともにF1界を牽引してきた自他共に認めるトップチームであるマクラーレンには、いかなるときも勝利を目指すという遺伝子が脈々と受け継がれている。マルチディフューザー問題で失速し、年間2勝に終わった'09年でさえ、彼らは毎戦ロケットオレンジシャツをバッグに忍ばせて、日曜日にサーキットへ向かったほどだった。
ピット裏の努力を知るハミルトンはスタッフに信頼を寄せる。
しかし、その遺伝子を持ったがゆえにマクラーレンには常勝が宿命づけられ、時にそれは批判となってチーム全体へのプレッシャーに変わることもあった。
第7戦カナダGPでの劇的な逆転優勝の後、バレンシアとシルバーストーンで2戦連続で表彰台を逃した直後に、チームの地元イギリスのメディアが「チーム代表、更迭か?」と報じたのは、マクラーレンが名門チームである証でもあったのだ。
そんな中、土曜日の予選でマクラーレンに4戦ぶりにフロントロウを持ち帰ったハミルトンは、チーム代表の進退について尋ねられると、「そんなことは、まったくないね」と憶測を一笑に付した。そして、こう続けた。
「F1には魔法はないんだ。地道に仕事を積み重ねるしかない。予選でフロントロウに返り咲くことができたのも、ファクトリーで仕事するスタッフたちの努力が実って、いくつか新しいパーツを持ち込めたから。それでもポールポジションを取ったわけじゃないから、これからもコンスタントにプッシュし続けなきゃいけない。だれかを1人辞めさせても、何も変わらないんだよ」