チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
予選扱い。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/03/15 00:00
率直に言って、中村俊輔のプレイは見ていて少し辛かった。このレベルに入ると、アスリートとしての頼りなさが、長所をはるかに凌いで見える。決勝トーナメント1回戦セカンドレグ、サンシーロで行われたミラン戦の話。日本に伝えられている報道は、おそらくそれとは180度異なると思うので「なにフザけたこと言ってるんだ、お前は!」と、怒られそうな気もするが、この目で直に見た僕は、だからこそあえて一言いいたくなる。スコットランドリーグではオッケーだ。まだ緩さの残るチャンピオンズリーグの1次リーグの試合でも、セーフになる。しかしこのレベルになると辛い。とりわけオフザボールの際、彼はほとんど戦力外状態に陥る。ダッシュ力に乏しい選手として、チームにはマイナスの存在にさえ映る。
少なくとも、中村俊輔がこの試合で輝いていたわけでは全くない。セルティック以上のチームが、この試合を見て、彼に食指を伸ばしたくなったとは、とても思えないのだ。
チャンピオンズリーグの決勝トーナメントに初めて出場した日本人。これは晴れがましくも厳粛な事実ながら、それはそれ、これはこれだ。必要以上にヨイショする姿勢はいただけない。プレイ内容は冷静になって検討されるべきである。
ミラン対セルティックを観戦した翌々日、僕はミラノからバルセロナに飛んだ。
バルサ対マドリーの一戦を観戦するために。別名はエル・クラシコ。政治的、社会的背景まで絡んだスペインを二分する大一番ながら、とりわけ今回の一戦は、僕には気の抜けたビールのようにしか感じられなかった。スコアは3−3。大接戦だったにもかかわらずだ。バルサがその4日前に試合をした一戦の方が、現場は数倍も数倍も盛り上がっていた。威厳と格式にも満ち溢れていた。アンフィールドで行われた対リバプール戦である。
この2つの試合を通して、チャンピオンズリーグの重みを改めて垣間見た気がした。バルサとマドリーはともに「敗者」。平行してチャンピオンズリーグが行われている以上、残された国内リーグを、そうした気分を味わいながら過ごすことになる。晴れて、国内リーグを制したところで敗者のレッテルを払拭することはできない。
'97〜'98シーズン以降、5シーズンに3度、チャンピオンズリーグを制したマドリーは、それぞれのシーズンの国内リーグでは優勝争いにさえ絡めなかったという事実がある。しかし、それでも彼らは勝者として、それこそ銀河系軍団として、この世の中に君臨した。
本番はチャンピオンズリーグ。国内リーグはその出場資格を取るための予選。このような関係が暗黙のうちにできあがったのは、この頃だ。以来その傾向は加速している。国内リーグ優勝のステイタスが、年を追う毎に低下している現実が、先日のクラシコの現場で改めて再確認されたというわけだ。
というわけで、スペインの主役は現在、国内リーグ第3位のバレンシア。万が一、バレンシアがチャンピオンズリーグで優勝でもすれば、2強のどちらかが国内リーグを制しても、大喜びはできなくなる。敗者気分はつきまとうのだ。
優勝はともかく、バレンシアは相当やるだろう。準々決勝のチェルシー戦は必見だ。依然、ブックメーカーから本命視されるチェルシーにとって、最も戦いたくなかったチームであるはずだ。堅い。しぶとい。それにチャンピオンズリーグの戦いになると、その魅力に柔らかさという要素が加味される。スペイン国内では、明らかにならない魅力も、欧州、とりわけイングランド勢を相手にすると、鮮明になる。ラテン色が際だつのだ。スペイン国内では、守備的だといわれるスタイルも、欧州では十分攻撃的で通ることになる。つまり、とてもバランスの良いチームに見えるのだ。2シーズン連続準優勝した時('99〜'01)も、イングランド勢には、好成績を残している。バレンシアには戦いやすい相手に見えて仕方がない。にかかわらず、チェルシー、マンU、リバプール、ミランに次ぐ5番人気だ。チャレンジャー精神をむき出しにできる、絶好のポジションにつけている。ウイリアムヒル社の優勝予想オッズは現在10倍。3.75倍のチェルシーより「狙う」なら、断然こちらである。少なくとも、好勝負間違いなしだと僕は読む。