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切ないほどに「正しい」結末。
~魔裟斗、川尻達也に完勝~ 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2009/07/15 11:30

切ないほどに「正しい」結末。~魔裟斗、川尻達也に完勝~<Number Web> photograph by Susumu Nagao

川尻に右ストレートを打ち込む魔裟斗。3月以降に取り組んだ筋力トレーニングの成果でパンチ力がさらに増し、強打で川尻を終始圧倒した。

「魔裟斗、TKOで完勝」――それが結末だった。7月13日、日本武道館で開催された『K-1 WORLD MAX』のメインイベント。引退ロード2戦目の魔裟斗は、DREAMを主戦場とする総合格闘家・川尻達也を一方的に叩きのめし、TKOで勝利を収めた。K-1ファイター、それも昨年の世界トーナメント優勝者が、いわば門外漢の選手をKOする。あまりにも筋が通っている。簡単に使うような言葉ではないが、「正しい」といってもいい結果だ。

 ただし、この結果を「当たり前だろ」で済ませたくはない。「総合の選手がK-1王者とやったって、勝てるわけがないんだよ」とは言いたくないのである。この試合に臨んだ川尻の姿勢もまた、正しいものだったからだ。

川尻が無謀な闘いを選んだ理由。

 川尻は昨年大晦日の『Dynamite!!』において初のK-1マッチに挑み、元ムエタイ王者の武田幸三にKOで勝利している。このビッグ・アップセットで川尻の株は急上昇。今年5月にはJ.Z.カルバンを下し、DREAMライト級王座への次期挑戦権を事実上、手に入れた。本来なら、今の川尻は王座獲得のためのトレーニングや調整試合をすべき時期にある。にもかかわらず、川尻が選択したのはK-1世界王者との対戦だった。

 とてつもなく無謀で、意味がないようにさえ思える闘いを川尻が選んだのは、日本の総合格闘技界を盛り上げるためだ。一昨年のPRIDE買収と、それにともなう活動休止以降、日本における総合格闘技熱は数年前とは比べものにならないほど下がってしまった。PRIDEの後継団体であるDREAMも、観客動員、視聴率ともに苦戦が続いている。

 そんな状況を変えるため、一人でも多くの人間に総合格闘技をアピールするために、川尻は魔裟斗戦へと踏み出したのだ。対戦発表記者会見で、彼は言った。「俺の拳にはMMA(総合格闘技)ファンの、DREAMファンの思いが詰まっています。その拳を魔裟斗選手に思いっきりぶつけたい」。リングへと向かう花道は、セコンドだけでなく青木真也や今成正和といったDREAMファイター、佐伯繁氏らDREAMのスタッフとともに歩を進めた。川尻の決意と覚悟は自分のためのものではなく、だからこそ固く、強かった。

 いつもなら女性ファンの魔裟斗コール一色に染まるMAXの会場に、川尻と思いを一つにした総合ファンの野太い声援が混じる。隣の席の人間とさえ会話ができないような轟音の中で、魔裟斗だけは冷静さを失わず、世界王者としての正しい闘いを見せた。ガードを下げた超のつく攻撃的スタイルで挑みかかってくる川尻の突進をさばき、あらゆる攻撃を的確にヒットさせていく。そこに、他ジャンルの相手を見下したような油断や遊びは一切なかった。必要な攻撃を必要なだけ繰り出して、魔裟斗は2ラウンド1分43秒で敵のセコンドにタオルを投入させた。

敗者に“不純物”はいらない。

 拳を突き上げる魔裟斗と、マットに倒れ込んだ川尻。決着の瞬間に会場の照明を全開にする演出は、勝者と敗者のコントラストをこれ以上ないほど浮き彫りにした。正しい試合の正しい結末とは、なんと残酷で切ないのだろうか。川尻は、形に残るものは何一つ得られなかった。ジャンルを背負い、常人では計り知れない恐怖と緊張に向き合って敵地に乗り込んだ結果が、文字にすればたった一言、「完敗」でしかなかったのだ。

 だが、この残酷さや切なさも、やはり正しいものなのだ。試合後のインタビュースペースで、川尻は「本気で勝つつもりだったので、本当に悔しい」と語っている。そういう男に対しての慰めなど、不純物にすぎない。身を引き裂かれるほどの悔しさを味わうことは、正しい敗者のみに許された特権ではないか。

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