カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:横浜「スタジアムに格付けを。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2007/12/18 00:00
クラブW杯決勝はミランの攻撃的サッカーで娯楽性が高かった。
しかし、会場となった横浜国際競技場には不満だった。
スタジアムを格付けし、競争させた方がいいのではないか。
本日、日曜日は、厚着をしていったつもりだけれど、夕方から2試合を立て続けに観戦するには、寒さが厳しすぎた。ハーフタイムや試合と試合の間にプレスルームに戻れば、暖を取ることができる僕たち報道陣は、それでもまだましな方だ。一般の観衆はさぞ大変だったに違いない。苦労のほどがしのばれる。
その意味ではミランに感謝だ。リードしても、どこかのチームのように、後ろに下がって守備を固めることなく、高い位置でボールを奪い、ガンガン攻めてくれたからだ。4点奪っても、5点目を狙いに行くところに、娯楽性は凝縮されていた。
だがいっぽうで、ミランがいくらサービス精神を発揮しても、解消されない問題もあった。文句は言いたくないのだけれど、このコラムの性質上、舞台について、やはり一言いわずにはいられない。横浜国際競技場=日産スタジアムのことである。
試合会場にいるにもかかわらず、現場の実感がまるで湧いてこないスタジアムなのだ。臨場感は著しく低い。これまで延べ何百回、いや何千回かもしれないほど、いろんなスタジアムに出向いたことがある“スタジアム評論家”の目には、残念ながらワーストに見えてしまう。
ピッチまでの距離は遠いし、視角は悪いし、音の反響率は低いし、スタジアムの音響そのものも悪いし。また、スタジアム周辺の雰囲気も楽しげではない。アクセスも良好ではない。ここまで悪く書くと、横浜マリノスサポーターからは「我がホームを馬鹿にするな!」と、酷くお叱りを受けそうだが、あまりにも……という気がするので、申し訳ないがお許し願いたい。
本日、さらに気になったのは、スタジアムのカラーリングだ。どこを見渡しても、赤やオレンジなどの暖色系を探し出すことができないのだ。つまり暖かみに欠けるのだ。真夏はそれで良いかもしれないけれど、冬場はちょっと辛い。せめてスタンドの椅子ぐらいは色を変えるべきと思ったのは、僕だけではないはず。
なにより、遠路はるばる駆けつけた外国人サポーターがそう感じたに違いない。立派ではあるけれど、ここまでサッカー観戦には不向きなスタジアムも珍しいと。
スタジアムには、外国人の姿がいつになく目立った。とりわけ、イタリアからやってきたとおぼしきミランサポーターは、過去にミランが出場したどの大会より確実に多かった。ユーロ高と深い関係にあることは間違いない。
イタリア人にとって、いまの日本は相当安い国に見えるはずだ。例えばミラノで「それなり」のホテルに泊まろうとすれば、100ユーロは覚悟しなければならない。100ユーロはこの日のレートで言えば16300円。ミラノで15000円以下のホテルを探すのはなかなか困難だ。15000円出せばそれなりどころか、5つ星クラスの豪華ホテルも見つかる東京や横浜が、彼らには安く思えて仕方がないはずだ。
僕が欧州を訪れた時、高いと感じる分だけ、日本を訪れた彼らは安いと感じているのである。見下されているような、ダメな国の一員に成り下がったような気分である。
ところが、あるコンサルティング会社の調査では、東京の物価は世界で第3位なのだという。1にモスクワ、2にソウル、3が東京で、4が香港。普段、僕が滅茶苦茶高いと感じているロンドンは、日本の次の次、5位にランクされるのだそうだ。
東京の物価のどこがそんなに高いのか。おそらく僕が知らない世界に、高い場所はしこたま隠れているのだろう。ミシュラン東京版に掲載されている星印の付いたレストランなどは、その代表的な例になる。
いったいいくらで、その料理を食べられるのか。ミシュランには、支払った料金と味との相対的な評価が欠けているのだ。僕などには「1万円以下で食べられるレストランベスト100」なる本の方がよっぽどありがたい。外国のホテルに付いている星印についてもそれは言える。問題なのは、いったいいくらでそのホテルに泊まれるのか、だ。とりわけ外国の場合、ホテルの値段は時期によって変動するので、ほぼ一定のレストランより、やりづらいことは確かだが。
そこで思うのがスタジアムだ。スタジアムにこそ星を付けるべきだと考える。つまり、競わせるべきだと。
その点UEFAは抜かりない。5つ星と4つ星のスタジアムを認定しているのだ。そして、5つ星にはチャンピオンズリーグ決勝を、4つ星にはUEFA杯決勝を行う資格を認めている。
UEFAがもし日本のスタジアムに星印を付けるとしたら、5つ星はいくつ生まれるか。ちなみに、ドイツW杯の会場となったスタジアムの中で5つ星は5つ。
中でも、横浜国際競技場=日産スタジアムについて、どんな評価を下すのだろうかは気になるところだ。建物の立派さや内部施設に関しては、5つ星に十分値する。オーガナイズも合格だろう。しかし肝心の見やすさは。観戦者目線では……。判定はいかに?
世界に誇れるバリバリの5つ星スタジアムが、日本に誕生する日はいつの日になるのか。ミシュランから東京のレストランが8つも5つ星に認定された食文化に負けるなと言いたい。スポーツ文化がそれに追いつく日は、僕の目の黒いうちに訪れるのか。怪しい雲行きになっている。