カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:大邱「居心地の良い国、韓国」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2005/08/10 00:00
継続性の無いチーム編成に嫌気がさした
東アジア選手権の韓国取材。
それでもこの国には“味わい”がある。
東アジア選手権の取材のために、再び韓国を訪れている。
ふとドイツを思い出す。3年前、もしソウルの準決勝で、韓国がドイツを下していれば、横浜で行われた決勝に、韓国が進出したことになる。共催国の日本は、いっそう屈辱感を味わうことになっただろうし、ジーコジャパンがその直後に、なし崩し的にスタートすることもなかったかもしれない。
とにかくだ。日本には、過去を考察、検証、分析し、それを踏まえて次に向かう習慣が決定的に欠けている。
東アジア選手権が、コンフェデ杯に続いて行われた大会だということも、韓国でドイツを連想させる理由だ。コンフェデ杯で日本がまずまず活躍できた理由は何か。1年後、それ以上のチームに成長して戻ってくるためにはどこをどう調整すればいいのか。それを受けての東アジア選手権であるはずだ。初戦で北朝鮮に敗れると、スタメンを全取っ替えするジーコの采配を目の当たりにすると、何か違うんじゃないかという気になる。若手を使うことに文句は全くないけれど、全部いっぺんに代えたんじゃあ、チームとしての継続性は失われる。
そしてEISだ。何じゃそれとお思いになる方もいると思うので、説明させていただくと──コンフェデ杯期間中、ドイツはとても暑かった。だからEISをたくさん食べた。それはとっても美味しかった。カフェに入れば、ダブルエスプレッソとセットで、必ずアイスクリームを頼んでいた。ドイツ語では、アイスをEISと表記するのである。
そして韓国でも、僕はまたアイスバー(チュウチュウバー)を、しこたま食べている。今日も3個も食べてしまった。暑いから。理由はそれだけではない。
韓国メシはそのほとんどが辛い。だから、食後には、お口直しにアイスクリームが食べたくなる、というわけだ。
その中に、日本では絶対に体験できない珍しい味もあった。トマトアイス。野菜であるトマトと、甘味が基本のアイスクリームとの間に、どんな接点があるのか。コンビニでそれを発見した時、一瞬ギョッとした。トマトと言えば塩。塩っぽいアイスなんて食べたくないし、逆に、トマトに砂糖というコンビネーションも難ありだ。稀にそれを好む人がいるらしいが、僕の感覚では、それこそ味音痴の代名詞となる。しかし、トマトアイスは美味かった。身体が瑞々しくなるようなヘルシーな味だった。トマトの味とアイスの基本を、どちらもキチンと抑える離れ業を実現していた。
トマトアイスに代表されるように、韓国人は野菜をとても良く食べる。韓国メシといえば焼き肉と、イメージしがちだが、どっこい実は野菜なのだ。日本人より肉を食べる量は多いのかも知れないが、野菜を食べる量にはもっと明確な差がある。間違いない。レストランで料理を注文すれば、小皿に載った「付け出し」が6〜7品オートマチックに付いてくるのだが、そのほとんどの食材が野菜なのだ。肉を頼めば、サンチュやケンイプ(ゴマの葉)もオートマチックに付く。一つでも皿が空になるとすると、すかさずお代わりを運ばれてくる。野菜好きの僕にとって、これは滅茶苦茶嬉しい習わしである。なにより、野菜そのものが、しっかりした昔懐かしい濃い味な点が素晴らしい。だから、プコツといわれる緑の唐辛子だって、辛いと分かっていても、味噌を付けてガブリといただく。
唯一の問題は、大のトイレに行く回数が多い点だ。僕の場合、通常1日1度〜2度だが、今は1日3度。まさに食ったら出す状態にある。たくさん食べても、直ぐに体外に放出されるので、お腹は直ぐに空く。だから1日4食は当たり前の大食漢になっている。とはいえ、デブ化した様子はあまりない。たっぷり野菜を摂っているからに他ならない。
ちなみに、今回の旅で食べた最高の一品は、全州の「韓国館」で食べたビビンバとなる。韓国館は4年ほど前、このビビンバ発祥の地を訪れた時に、フラっと入ったその老舗だが、4年ぶりに訪れても、味に衰えはまったくなかった。「美味い!」。同行の記者、カメラマンも、口にした瞬間、感嘆の声を一様にあげた。
僕がこの原稿を書いているのは、韓国対日本戦を間近に控えた大邱のプレスセンターだ。これから行われる試合は韓国対日本戦。大一番と言いたいところだが、現実はB代表戦。客の出足はとても悪い。おそらく試合は、B代表戦に相応しい、満員にはほど遠い中で行われるに違いない。韓国人のサッカーへの健全な姿勢を垣間見る気がする。
そんなこんなの韓国で、僕はいま、居心地の良さをたっぷり味わっている。少しばかり、お尻をムズムズさせながら。