総合格闘技への誘いBACK NUMBER

PRIDEに求められるもの。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2006/07/05 00:00

PRIDEに求められるもの。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 いつもと変わらない風景だった。

 さいたまスーパーアリーナ前のけやき広場には人々が溢れ、お気に入りの選手のTシャツを着た観客はこれから始まろうとしている激闘に思いを馳せているのか浮き足立ったように会場を目指している。キャラクターグッズが売られているテントには長蛇の列ができ、またダフ屋は取締が厳しいので低い声で「え〜っ、3席並びはないよ〜」などと商売にせいを出している。

 7月2日、PRIDE GP 2ndラウンド。

 一連のフジテレビ放送打ち切り騒動後、初のイベント開催となるこの日、どのような変化、あるいは後遺症が発露しているか注目したのだが、会場外は普段と変わらぬ様子だった。見上げれば曇り空。別に何を期待していたわけではないが、このあまりの変化のなさが逆に不安定を暗示するような気がしてならなかった。変わらないということは、つまり“停滞”を意味することと一緒だからである。

 中に入ると会場は、PRIDE武士道のときとは異なり4万人以上を収容できるアリーナサイズで設置されていた。いくらか空席も目立つ。地上波で観られないぶん、大挙して人が訪れるかと思っていたが、現状はそう簡単ではないようだ。

 セットはいたってシンプル。LED電飾や花火に派手さはなかったが、最低限のPRIDEのクオリティを保っていたといっていいだろう。リングサイドに目をやると、当然ながらフジテレビのクルーや馴染みのあるアナウンサーたちはおらず、タレントの小池栄子がいたポジションには吉岡美穂が納まっていた。とはいえ、村上ショージはやんやの喝采を浴びていたし、PRIDEの顔とも呼べる印象的な選手コールをする巻舌のレニー・ハートやバリトンヴォイスのケイ・グラントらも健在。これまでフジテレビが制作していた試合前の煽り映像は、作り込みがいささか雑になりナレーターの声にも違和感を持ったが、いずれこういうモノは慣れてしまうのが関の山なのだろう。

 ただ、純白のリングにはスポンサーの名が刻まれているのだが、かつてあった有名企業の名は少なくなり、これまでなかった格闘技専門誌などのロゴになっているのを見たときは、現状の厳しさを感じるしかなかった……。

 まるで間違い探しをしているようで寒々とした思いにもなるが、一連の騒動があった以上、大半の人たちがそうやってPRIDEを見定めていたにちがいない。世界に類をみない凝った舞台演出をし、それが人気の要因に直結するのが日本の格闘技界の特性でもある。もちろん主役は選手と試合であるが、イベントとして会場の雰囲気や演出も一緒に楽しむファンも多いのだ。

 そんな中、一番気になったのが開催に際しオープニングで会場に流れたイメージ映像だった。『奈落へ昇れ』といった現状を逆手にとったキャッチコピーをベースに映像は展開していくのだが、そこではファンにこう問いかけられていた。

 「あなたにとってPIRDEとは?」

 サイモン&ガーファンクルの『明日へ架ける橋(Bridge Over Troubled Water)』が流れる中、選手たちが切磋琢磨し命を削りあうさまが映し出されている。

 ファンと選手あってこそのPRIDE、というメッセージとして伝えているわけだが、何ともいえない妙な感覚が心に残ったのだ。

 大会が始まると試合を終えた選手やゲストがマイクを持ち語り出す。

 「みなさんPRDIEは好きですか?ボクは大好きです!」(中村カズ)

 「どうなるか心配したけど、選手を信用して集まってきてください」(五味隆典)

 「PRIDEは大好き。サイコーのリングです」(エメリヤーエンコ・ヒョードル)

 「PRIDE Never Die!」(ヴァンダレイ・シウバ)

 ファンと選手の信頼は揺るがない。そんなものは今始まったものではない。

 しかしながら、それを媒介してくれるはずの主催者の顔が見えず、気配さえ感じなかったのだ。さきほど思い至った違和感はここにある。主催者を代表して高田延彦統括本部長が「PRIDEは永年に不滅です!」と力強く語っても、一連の騒動が解決していない以上、やっぱり頭の中にはクエスチョンマークが浮かぶばかり。

 同列に並べると誤解を招くかもしれないが、日本サッカー協会の会長や読売巨人軍の元オーナーの例をみてもわかるように、トップに少なからず信用を置けなくなるとその競技の求心力は低下する。いくら選手が努力しようと、ファンはどこかしらけムードになってしまうのが世の常だ。ファンは、トップに安心して身をゆだね、そして選手と繋がりたい。

 大会はラスト3試合で大いに盛り上り、ひとまずは無事に幕を閉じた。クオリティも十分維持できていたように思う。しかし、最後まで奥歯にモノが挟まったような違和感を拭うことはできなかった……。

この記事の全文は「Number PREMIER」でお読みいただけます。
《バスケ日本代表》ベネズエラ戦、7分18秒の真実…「信じていますか?」トム・ホーバスに問われ続けた比江島慎と川真田紘也
《バスケ日本代表》ベネズエラ戦、7分18秒の真実…「信じていますか?」トム・ホーバスに問われ続けた比江島慎と川真田紘也
甦る死闘。 True Stories of 2023. - Number1086号 <表紙> 大谷翔平

Sports Graphic Number 1086
甦る死闘。
True Stories of 2023.

2023年12月7日発売
800円(税込)

Amazonで購入する

格闘技の前後の記事

ページトップ