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佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 2 マレーシアGP 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta

posted2004/03/23 00:00

佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 2 マレーシアGP<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta

 「ア〜ッ! 琢磨が……」

 周りのプレス仲間がこっちを振り向くような大声を思わず上げてしまった。それも予選と決勝で、2回も。

 決勝グリッド順を決める2回目予選アタック。9番手でコースインした琢磨は直線の長い第一区間、高速コーナーの連続する第2区間を好タイムでクリア。これなら予選トップ10入りは確実と、思わずニンマリした矢先、TV画面の中のBAR006がフラついた……かと思う間もなくスピン! コース外グラベル(砂利)の中を後ろ向きに突っ走って行くオンボード映像が予選失敗を告げていた。

 ノータイム。スタートは最後尾からとなってしまった。

 予選終了後の琢磨にさすがに笑みはなかった。

「スピンしたところは複合ハイスピードコーナーで、ブレーキングに入る前。外側にあるバンプ(路面の凹凸)に弾かれてしまいました。悔しいですね。しっかり1周して帰って来たかった。でも、無謀に攻めたわけじゃないのでしかたないです」

 予選結果表が出た。仮に第3区間をスンナリとクリアしていたら、少なくとも10位ダ・マッタの上にいたことは間違いない。いったいどこまで攻めればいいのか、どこからが無謀で、どこからがそうじゃないのか。

 ホンダ(HRD)の中本修平エンジニアリング・ディレクターは、このスピンについて「琢磨がどう言ったかは知りませんが、スピンした場所は一回アクセルを抜くところなんです。そこを琢磨は全開で行った」と教えてくれた。

 ほらみろ、無謀じゃないか……と思ったが、中本エンジニアはすぐに「それくらいマシンのセッティングが決まっていたということなんですよ」と続けた。そうか、それならあの攻めはレーシング・ドライバーなら当然、決して無謀じゃない。琢磨はレーサーなんだなぁと、我がココロは180度のスピンターン。一瞬とはいえ琢磨を疑った自分が恥ずかしい。

 決勝を最後尾からスタートした琢磨は、また立派に“レーサー”してた。オープニングラップで8台をゴボー抜きし、11位。凄いッ! と思ったのもつかの間、2周目15位、4周目18位。オイオイ、どうなってるんだ? あまりに“出入り”が目まぐるしくてわけがわからない。

「スピンしてコースを飛び出したんです。あれで10秒ロスしたでしょう。コースに戻れてよかった」と、レース後の本人はさほど気にしていた様子もない。

 その後の佐藤琢磨は実にコンスタントな走りを見せた。3回給油がスタンダードな戦略だったトップグループにあって、BARホンダ陣営は琢磨を2回ストップ作戦でレース(予選)に送り出していたのだ。タンクが軽くなるにつれてラップタイムが上がり、前車が固まってピットインするたびに順位も上がって56周レースの41周目には8位に浮上。

 よしよしと思ったのもつかの間、TV画面は逃げ水の中に立ち止まる琢磨のマシンを映して出していた。残りあと4周でエンジン・トラブル……。

「オ~ッ! サトーサ~ン」という外国人プレスの声が嬉しいような悔しいような。

「悔しいし残念だけどしょうがないですね。次のバーレーンでまた頑張りますよ」と、レース後の琢磨には笑みが戻っていた。

 バトンの3位初表彰台は慶賀すべきことだが、琢磨を忘れてもらっては困る。

 マレーシアに来ていたホンダの福井威夫社長は木内健雄監督と声を合わせてこう言った。「次は琢磨の番だ!」。

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