セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
アラフォー世代の監督旋風
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2009/04/19 07:01
ACミランの来季新監督に、カリアリのアレグリ監督が急浮上していることが8日、明らかになった。同日付けのイタリア各紙が一斉に報じたもので、名将アンチェロッティの後任として同クラブ顧問のレオナルド氏、バルセロナ元監督のライカルト氏、そしてイタリア代表前監督のドナドニ氏(現在ナポリ監督)がリストアップされたが、アンチェロッティ監督がアレグリ采配に太鼓判を押したことでアレグリ氏に白羽の矢が立てられたという。
アレグリ監督は現役引退後、下部リーグの指揮官として指導者生活をスタート。今季初めてセリエAのクラブを率いて、そのカリアリを7位に導いている。前述の3人を凌ぎ、名将の誉れ高いアンチェロッティの跡を継ぐだろうとされるアレグリ監督の魅力は理論に裏打ちされた戦術である。今シーズンはユベントス、ローマ、そしてミランを相手にそれを証明してきた。
アレグリ、バッラルディーニ、デ・カルロら「青年監督」の台頭
今季のセリエは、かつて「青年監督」と呼ばれた40代前後の指導者たちのチーム作りが成功している。アレグリに始まり、パレルモのバッラルディーニ、キエボのデ・カルロ、シエナのジャンパオロはその功績を評価されている“アラフォー世代”の指導者たちである。アレグリ監督のミラン入り説をはじめ、ジャンパオロ監督も来季ラツィオの監督候補に挙がるなどセリエAではアラフォー世代の監督がブレイクする兆しがある。
アラフォー世代の監督の志向するサッカーは「組織」。各選手に明確な役割を与え、チーム全員に一体感を持たせることに注力している。攻撃の基本はサイドアタック。ボールを奪ったら手数をかけずに即サイドにボールを展開する。守備面ではボランチは攻撃に絡まず守りに徹底する点からアラフォー世代は「戦術重視派」であることに気づく。
再び戦術重視の時代がやってきた
イタリアは、過去に「カテナッチョ」「リベロ」という戦術を生んだ土壌とあって、イタリア人監督はシステムを随一とする戦略家であった。ところが、財政力を武器に超一流選手を買い求める傾向がクラブ間に強まると、監督には戦術より優れた選手鑑定眼を要求されるようになった。その典型がトラパットーニ、カペッロ、リッピで、彼らは「信頼のある」選手によるリスクの少ないサッカーを好んだ。近年、スター選手を擁するセリエAのビッククラブは勝利至上主義。内容はどうあれ勝つことを至上とすることから、指揮官は戦術を棚上げして個の力を突き出させる環境をつくり、「個」を光らせる感覚的な戦い方に注力する。しかし、肝心の「個」に疲労が目立ってくると荒っぽいプレー、ラフなプレーが増え、体力ダウンによるパフォーマンスの低下によって苦戦した試合も少なくはない。
結束力を重んじる思考こそ、今日のビッククラブにとって弱点の克服材料である。チームの強さを信じて前向きに戦うことも大切だが、相手の出方をうかがう慎重な試合運びも必要な時代でもある。これが戦術重視派のアラフォー世代の指導者がビッククラブから熱望される理由と思われる。
名将たちがイタリアを去り、アラフォー世代がイタリアを変える
ミランに話を戻す。アンチェロッティ監督が来季も続投するか否かの結論はまだ出ていない。セリエAの黄金期を支えてきた名将らが新天地をイタリア国外に求めることで、アラフォー世代の指導者たちを表舞台で試すチャンスが巡ってきたといえる。資金力でもイングランドにたち打ちできないセリエAのビッククラブもリーズナブルな年俸のアラフォーたちの突出を好機ととらえているのかもしれない。