MLB Column from USABACK NUMBER
ビリー・ゴートの呪い 2
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2004/08/03 00:00
ナ・リーグ中部地区の優勝候補とされていたアストロズが、7月30日現在、首位カージナルスに15ゲーム差も離される大苦戦を強いられている。
昨季のアストロズは1ゲーム差でカブスに地区優勝を譲ったが、今季はロジャー・クレメンス、アンディ・ペティートの先発2枚が加わり、プレーオフ出場間違いなしと予想する向きが多かった。しかし、シーズンが始まってみると、優勝争いに加わるどころか、52勝52敗(7月30日現在)、ちょうど5割という体たらくで、不振の責任を問われたジミー・ウィリアムズ監督はオールスター直後に解雇されてしまった。
しかし、私が見る限り、アストロズ低迷の最大の原因は「ビリー・ゴートの呪い」にあるので、監督に責任を押しつけるのは酷である。こんなことを書くと、「李の大たわけ、ビリー・ゴートの呪いはカブスだろう」とお怒りになられる読者も多いだろうが、決して書き間違いではない。昨シーズン終了間際に、「ビリー・ゴートの呪い」が、シカゴからヒューストンに輸出されていたからである。
読者もよくご存知のように、「ビリー・ゴートの呪い」とは、45年のワールドシリーズで山羊(ゴート)との入場を断られて怒った居酒屋店主ビリー・シアニスが、「金輪際二度とワールドシリーズに出られないようにしてやる」とカブスに呪いをかけたというものである。その後、果たしてカブスは一度もワールドシリーズに出ることができず、「ビリー・ゴートの呪い」は絶大な威力を発揮してきたのであった。
60年近く続いた「ビリー・ゴートの呪い」の魔力から逃れるために、「呪いをライバル・チームに上げてしまう」という名案を思いついたカブス・ファンが、山羊を連れてアストロズの本拠地ミニット・メイド・パークに現れたのは、昨年9月22日のことだった。当然のことながらアストロズは山羊の入場を拒否、件のファンは、「これで呪いはお前達に移った」と宣言したのだった。
しかし、「呪い」がすぐさまその魔力を揮うとは、件のファンでさえも夢にも思っていなかったのではないだろうか。その日、アストロズは、3カ月近く無失点記録を続けていた抑えのエース、ビリー・ワグナーが最終回に3点を奪われるまさかの逆転負けで、単独首位の座から陥落してしまったのだった。昨季のアストロズは、結局、この敗戦がきっかけとなってカブスに逆転優勝を許してしまったのだが、今季もエースと期待をかけたペティートが怪我で苦しむなど、「呪い」の効果は持続している。
一方のカブスだが、昨季のリーグ選手権を「バートマン事件」のせいで失ったことでもわかるように、「呪い」からの解放はならなかった。どうやら、「ビリー・ゴートの呪い」は、他に伝染させることはできても、他に伝染させたら解放されるという質のものではないようなのである(この辺りは「不幸の手紙」とは違うので注意が必要だ)。
いま、ア・リーグ東地区ではヤンキースが独走を続けているが、レッドソックス・ファンの私は、「ヤンキー・スタジアムに山羊を連れて行く」ことを真剣に考えている。