MLB Column from USABACK NUMBER
井口は新人王を取れるか?
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2005/07/19 00:00
スポーツ・イラストレイテッド誌が、7月4日号で、ア・リーグ前半戦新人王に、ホワイトソックスの井口資仁を選出した。井口が新人王を獲得した場合、ホワイトソックスからの選出は、1985年のオジー・ギエン(現ホワイトソックス監督)以来、20年ぶりの快挙となる。昨年、高津が新人王得票で2位に終わったばかりであるだけに、日本のファンも大きく期待しているのではないだろうか?
しかし、日本のファンの期待に水を差すようで申し訳ないが、私は、井口の新人王獲得については楽観していない。楽観できない理由の第一は、井口の成績自体にある。前半戦終了時点で打率2割8分0厘、本塁打5、打点33と、まずまずの成績を残しているが、実は、快調に打ったのは5月半ばまでで、以降成績がじわじわと下がっているのである。以下、打率とOPS(出塁率と長打率の和)で井口の月別の成績を記す。
打率 | OPS | |
4月 | .333 | .729 |
5月 | .275 | .869 |
6月 | .244 | .673 |
7月 | .250 | .621 |
楽観できない理由の第二は、開幕から出場した井口と違い、5月に入ってからメジャーに昇格した新人達が、井口を追い抜きそうな活躍をしていることだ。競争相手となりそうな選手(野手に限った)と井口の成績(前半戦終了時点)を以下に記す。
名前(チーム) | 打率 | OPS |
クリス・シェルトン(DET) | .345 | .970 |
アーロン・ヒル(TOR) | .337 | .869 |
マイク・モース(SEA) | .343 | .856 |
ロビンソン・カノー(NYY) | .288 | .773 |
井口資仁(CHW) | .280 | .747 |
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私が井口の新人王に「当確」を打つ気になれない理由がおわかりいただけたかと思うが、日本の選手が新人王候補になったときの常で、井口の新人王資格を巡る議論が始まっている。6月29日付けのシカゴ・サン・タイムズ紙が井口の新人王資格を論じたのだが、日本出身選手を特別に扱えと言う議論は、「新人王資格」だけでなく、「殿堂入り資格」を巡ってもされている。
とは言っても、実際に、殿堂入り資格が議論の対象になっているのはイチローひとりだけであるが、「デビューが遅かっただけに、メジャーだけの通算成績ではイチローに殿堂入りの可能性はない。しかし、イチローほどの大選手に殿堂入りのチャンスがないのはおかしい。選考の際に、日本の成績も加味すべし」という主張を唱える人が米国にもいるのである。しかし、残念ながら、この主張を支持する米国人は少なく、「日本と大リーグはレベルが違うのだから、日本の成績を加味することはできない。伊良部を見ろ、松井(稼)を見ろ」とする向きが多数派なのである。
そもそも、最近は、ベテラン委員会での殿堂入り選出基準が厳格にされた(以前は記者投票で選出されなかった名選手を救済する役割を果たした)ように、殿堂入りの資格はもっと厳しくていいという議論が力を強めている。もっと厳しくていいと主張する派の代表と言えば、ナショナルズ監督のフランク・ロビンソン(1982年殿堂入り)になろうが、「殿堂入りにふさわしいかどうかが議論の対象になるような選手には殿堂入りの資格はない」というのが、ロビンソンの持論である。
イチローが殿堂入りするためには、「誰にも文句を言わせない」活躍をするしかないようだが、サンディ・コーファクス(通算165勝87敗)のように、通算成績ではなく、短い期間とはいえ、「誰にも文句を言わせない」華々しい活躍をして殿堂入りを果たした実例もあるのだから…。