MLB Column from USABACK NUMBER
ヤンキース、本塁打急増の秘密。
~暴かれた新球場のカラクリ~
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2009/06/25 06:01
1923年からニューヨーカーに親しまれた旧ヤンキー・スタジアムが老朽化。新スタジアムは約16億ドルをかけて建設された。今季4月16日が公式戦初開催
今季、ヤンキースの本塁打攻勢が際立っている。6月16日現在、チーム本塁打102本(シーズン換算258本)はダントツのア・リーグ1位、昨季の全180本(同4位)と比べ4割以上の増加となっている。
しかし、本塁打を打ちまくる一方で投手陣が打たれる本塁打も急増、被本塁打86本(リーグ1位、シーズン換算218本)は、昨季の143本(同12位)と比し、5割増となっている。
本塁打数、前年比25%増! 新球場は「左打者天国」!?
では、なぜ、本塁打数も被本塁打数も激増したかというと、その原因が新ヤンキー・スタジアムにあることで衆目が一致している。「外野フェンスまでの距離は旧スタジアムと同一」との触れ込みとは異なり、衛星写真の分析によると、新スタジアムのフェンスは外へのふくらみが少なく、平均して1.2~1.5メートル(最大2.7メートル)本塁に近くなったといわれている。
さらに、スタジアムの建物そのものが本塁から右翼の方向に風が吹き抜けやすい構造となっているために、フェンス近くで上昇気流が生じるようになったとの説も唱えられている。
今季、ヤンキースのホームでの本塁打量産率はロードの約1.5倍、ヤンキース選手の本塁打数は、他チームの選手と比べて、25%ほど「かさ上げ」されているとみなしてよいだろう(ちなみに、昨季は、ホームとロードの本塁打量産率に差はなかった)。
旧スタジアムの時代から、左打者に有利なことでは定評があったが、新スタジアムは「左打者天国」と呼んでも大げさではないほど有利な球場となっているのである(投手の場合は、左打者が打ちやすい右投手に不利となった)。
「左」偏重のドラフト指名で見えたヤンキースの戦略とは?
まるで、ロッキーの高地のようなペースで本塁打が乱れ飛ぶ現状に、「ゲームが大味になるからつまらない、何とかしろ」と対処を求める声も聞かれ始めているが、シーズン途中での球場改築はMLBの規則で禁じられているだけに、ヤンキースが早急な改善策を講じることは難しい。
難しいどころか、ヤンキースには、大金を投じて新築したばかりの球場を改造して、普通の球場に近づける気などまったくないようである。というのも、6月9日から行われたドラフトで、上位10人中、左打者・左投手をなんと6人も指名、昨年の3人から倍増させたからである(ライバルのレッドソックスは、去年・今年とも3人だった)。ドラフトの結果からチームの長期戦略を窺う限り、すでに、新スタジアムが「左打者天国」であることを念頭に置いたチーム作りを始めているようなのである。