野球善哉BACK NUMBER
前田健太の何かがおかしい――。
“泥臭い”投球に、復活の兆しを見た。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2011/06/22 11:50
昨年の成績は15勝8敗、防御率2.21だった前田健太。セ・リーグとしては11年ぶりとなる投手三冠(奪三振174)となった
不調から慎重になり過ぎ、手数も多くなり自滅していた。
昨季は開幕戦で8回95球で勝利投手になるなど、要所で球数は抑えられていた。2試合連続完投した日ハム、ソフトバンク戦では、ともに9回を121球で収めている。勝利投手にならなかった試合でも9回107球という試合があったほどだ。
昨季の前田健に、球数が多い試合がなかったわけではないが、今季は5月22日のロッテ戦のように、相手打者に対して手数を掛け過ぎてしまうことが多かった。先述した、カウント1-2から3-2になってしまう現象は、大胆さを欠き、慎重に勝負を挑んだ末に球数を増やしてしまう、今季の前田健を象徴していた。
それが、交流戦最終登板から2戦目、6月10日の西武戦で変わったのだ。
気持ちを前面に出して勝負を挑む、前田らしい投球だった西武戦。
西武のサブマリン投手・牧田との投げ合いとなったこの試合は投手戦だった。
広島は牧田の巧みな投球に翻弄され0行進。西武は2回裏の好機をつぶすと、前田健の攻略機会を失ってしまった。0-0の投手戦で試合が続いた。
前田健は三振こそ6奪三振にとどまるが、勝負所での気合のこもった投球は鬼気迫るものがあった。
6回裏の中村、7回裏に銀仁朗を空振り三振。特に、銀仁朗に対しての勝負球は、インコースのストレートだった。気合い勝ちだった。
慎重な勝負に終始するのではない、手数を掛けずに気持ちを前面に出して勝負を挑む、まさに前田健らしい投球だった。
8回を投げて109球。9回表に広島が貴重な先制点を挙げたために、最終回は絶対的守護神・サファテにマウンドを譲ったが、今季初めて、任されたイニングを全て0に抑え、最長の8イニングを投げ切ったのだ。
サファテが9回裏に同点弾を浴び、勝利こそ逃したものの、試合後の前田健は自らに言い聞かせるように、手応えを口にしていた。
「今まではピッチングがスマートすぎたというか、きれいなピッチングをしようと思いすぎていた。今日から気持ちを出していこうと決めていました。自分の持ち味なので、結果的に良い方向に出てくれたのは良かった」