MLB Column from USABACK NUMBER
メッツ 「美人妻放出」の収支決算
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2006/09/21 00:00
メッツがナ・リーグ東地区を独走、マジック1と優勝を目前にしている(9月17日現在)。
2000年のワールドシリーズ出場を最後に低迷していたチームを立て直した最大の功労者は、なんといってもGMのオマー・ミナヤだ。03年には、年俸総額はリーグ1位だったにもかかわらず地区最下位に落ち、「1億2千万ドルの間違い」と嘲笑されたものだったが、落ちるところまで落ちたチームを、就任2年でリーグ最強チームになるまでに立て直したのだからその手腕は光る。
ミナヤは、04年オフにGMに就任すると、すぐさま、ペドロ・マルティネス、カルロス・ベルトランの大物FAを矢継ぎ早に獲得、高らかと「ニュー・メッツ」誕生を宣言した。さらに、昨オフには、ビリー・ワグナー、カルロス・デルガド、ポール・ロデューカを獲得、抑え・一塁・捕手と、チームの「穴」のすべてを、実績あるスター選手で埋めることに成功した。
その一方で、前任GMから引き継いだメンバーは次々と放出、「自分色」のチームを作ることに専念した。レギュラークラスのメンバーで今もチームに残るのは、野手ではホセ・レイエス、デイビッド・ライト、クリフ・フロイドの3人、投手ではスティーブ・トラクセルとトム・グラビンの2人だけと、チームの「総取替え」を断行したのだが、ミナヤに切られた旧体制要員の一人が松井稼頭央だった(6月にロッキーズにトレード)。
と、GMの凄腕で地区優勝を達成したメッツだが、ミナヤの凄腕ぶりを示す格好の例が、「美人妻放出」の収支決算だろう。シーズン開始前、お騒がせ女クリス・ベンソン夫人を厄介払いするためにベンソン投手をオリオールズに放出した話は以前にも書いたが、先発投手1人に対し、救援投手1人(ホルヘ・フリオ)とマイナーの投手1人(ジョン・メイン)の交換だったこともあり、当時は、「先発投手の頭数が減っただけの大損トレード」と酷評されたものだった。しかもシーズン開始直後、ベンソンと交換で獲得したフリオが絶不調、ファンの間で美人妻放出の「祟り」が囁かれ出す始末だった。
しかし、5月に入りフリオの調子が持ち直すと、即座にダイアモンドバックスのオランドー・ヘルナンディスと交換、ベンソンとの交換で獲得したフリオを「持ち駒」として使うことで、先発投手の頭数を補うことに成功した。それだけでなく、7月にはベンソンとの交換で獲得したもう一人の投手、ジョン・メインがローテーション入り、結果として、「先発投手1人と美人妻1人」の放出に対し「先発投手2人」を獲得した勘定で、頭数の帳尻を合わせてしまった。しかも、ヘルナンデスとメインの2人合わせて13勝10敗は、ベンソンの10勝11敗を上回り、戦力としての収支決算も見事に黒字としたのだった(ヘルナンデスはメッツのみの成績)。
ところで、今季のメッツ、6月20日には2位フィリーズに9.5ゲーム差と、独走態勢に入るのは早かった。しかし、凄腕GMミナヤは、プレーオフ出場が確実となった後も次々とトレードを敢行、チーム改造の手を緩めなかった。プレーオフに出場した先のことを考えるからこそのトレード継続に他ならないが、「今季のワールドシリーズは、00年以来6年ぶりのサブウェイ・シリーズになる」と予想する向きが多い。ヤンキースに対して、00年のワールドシリーズでは1勝4敗と一方的に破れたが、今季はリーグ交流戦で3勝3敗と5分の星を残しているだけに、ファンは6年ぶりの雪辱を期待しているのである。