野球クロスロードBACK NUMBER
青木宣親、初めてのスランプ。
彼に何が起こっているのか?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/06/29 13:30
打撃コーチ・淡口は、青木の下半身主導の打撃に復調を見る。
だが、打撃コーチの淡口憲治は青木について強気にこう語っている。
「彼は調子が悪いときでも計画的なトレーニングができる選手。自分のなかでのゲーム感さえ掴めれば、結果はおのずとついてきますから」
実際、感覚を取り戻し始めたな、と感じさせるゲームもあった。5月31日の千葉ロッテ戦、青木は64打席ぶりとなるタイムリーを含む2安打4打点。この日は彼の特徴である下半身主導の打撃が冴えていた。淡口も「バッティングで重要なのはお尻に力を入れること。それができれば内転筋や腰にもうまく力が伝わる。青木はそれがもともとできているんだから」と言う。
この試合がきっかけで、青木は交流戦での打率3割5分4厘と、いつも通りの数字を残すことができた。直近の巨人戦3試合だけで評価するとまだまだ本調子には程遠いが、淡口の言うゲーム感覚は次第に戻ってきていたのである。
青木の打撃に対する求道的精神が、スランプをもねじ伏せる。
青木は復調する、という確信には実は他の理由もある。
今年の春季キャンプでのこと。フリー打撃で右方向への打球ばかりだったことが少し気になり、そのことについて軽く振ってみた。すると彼は「引っ張りを意識していましたので」とアッサリと答えた。
「それだけならいい、ただ」とこちらが逡巡したかしないか……。
何かを察したかのように急に青木が尋ねてきた。
「いま何か気になることでもありましたか?」
いや、と答える。でも彼は頑として納得しない。
「なんですか? 言ってみてください」
正直な感想を述べてみた。
「少し内角の捌き方が窮屈だったかな、と」
すると、その意見で納得したようにこう答えてきた。
「でしょ。なんかバットの出が悪くて。いつもとなにか……感覚が違うんですよね」
フリーバッティングの直後、室内練習場でセンターへのライナーを意識しながらの打撃修正に黙々と取り組む青木の姿があった。
彼は「いつもと同じ感覚がほしいんです」と常々言っていた。
“いつも”の好調時の感覚を取り戻すためには、一介のライターにでもどんどん意見を求めるし、誰も見ていなかったとしても求道的なまでの鍛練を怠ることがない。その姿勢は今も昔もまったく変わりはないのだ。
「打率が3割台にいかない青木は青木じゃない」
そう思っているファンも多いだろう。
今はスランプだとしても、シーズン終了後、指定席であるリーグ打率部門の上位に青木宣親の名は必ずあるはずだ。そう信じられるだけの、“いつも”の兆しはすでに現われているのだから。