佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
リヤ・ウイング
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/09/19 00:00
スパ・フランコルシャンを攻める佐藤琢磨に、渇望するリヤ・ウイングがなかった。
2年ぶりのベルギー・グランプリの舞台となったスパ・フランコルシャンは、長いストレートと、いくつかの低、中、高速コーナーが組み合わされた平均時速230km、最高速320kmを誇るF1屈指の高速サーキット。空力パッケージは命綱である。そこでサーキットに合ったリヤ・ウイングがなく、間に合わせのウイングで走るとなればどうなるか。真剣勝負の相手に竹光で戦うようなものである。しかし、ないものはない。
「今日(金曜日)の午前中はとてもここでは使えない重い(ダウンフォースの大きい)バルセロナ用ウイングで走って、午後は軽いインディアナポリス用のウイングで走りましたが、クルマが曲がらない、止まらない(苦笑)。コーナーで横滑りしてしまって、タイヤがひどい状態。ウ〜ン(バルセロナとインディの)真ん中のウイングが欲しい〜!」
最後はおどけて駄々っ子のような声を上げたが、しかしそれが本音だ。それにしても、なぜこんなことになったのだろう。
佐藤琢磨は1カ月半ほど前、ここスパ・フランコルシャンで合同テストに参加、好感触を得ている。それゆえベルギーGPに懸ける期待は大きかったし、スパでの空力パッケージはそのまま2週間後の富士スピードウェイ「日本グランプリ」決戦に直結するから、ホームグランプリ前哨戦としての比重も大きいのだ。
合同テストで使ったウイングが、なぜいまスーパーアグリの2台のマシンにないのか。佐藤琢磨に訊いても「いろいろあるんですよ」と、口を濁して要領を得ない。壊れたり、盗難に遭ったりしたわけではないらしい。
それでもレースを戦わないわけにはいかない。スーパーアグリはどう対策を練ったか?
「バルセロナ用ウイングに“裏技”的空力処理を施して、空気の流れをストール(阻害)させたんです。ダウンフォースは下がるけれど、ドラッグ(空気抵抗)も下がってストレート・スピードが少し上がる。これが唯一のやり方でした」
予選は19位(フィジケラが降格してグリッドは18位)と冴えず、決勝レースもいいスタートを切りながらオープニングラップで他車に押し出されたのが災いし、1周遅れの15位フィニッシュ。
しかし、レース内容はすばらしかった。とりわけ、同じホンダ勢のバリチェロ、バトンのスリップストリームに入ってストレート・エンドでオーバーテイクしたシーンは、多くのファンの喝采を浴びた。佐藤琢磨のオンボード・カメラに映るホンダ車のウイングは、ストレートで速く、かつコーナー区間では適度なダウンフォースが出る理想的なもののはず。それを有り合わせのウイングでブチ抜いたのだから、ゲリラが正規軍相手に勝利したようなものだ。高速直線区間が多いセクター1の区間タイムは佐藤琢磨が6位。
「チームはすばらしい仕事をしました。富士の日本グランプリは大丈夫、今度こそクルマに合ったリヤ・ウイングを持って行きますよ!」
富士本番まであと2週間を切った。