佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
何がたりないのか
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/07/28 00:00
「幸運は要らない。とにかくバッドラックだけ出なければいい。1周目から抜け出せればいいですね」
予選で8位グリッドを確保した佐藤琢磨に、「明日のレースは?」と聞くとそんな答えが帰って来た。
しかしホッケンハイムの路面は偶数グリッドが汚れていて奇数グリッドほどダッシュが利きにくい。そのことを突っ込むと「そこに触れないで下さい!」と言い、続けて「奇数でも悪いことあるんで、文句言いません」と笑った。奇数グリッド……そういえばフォーメイションラップでエンストしてしまった前戦イギリスが7位グリッドだった。
予選5番手発進から8位へ。若い順番は路面が汚れていて不利だからこれは大健闘。15位からスタートして8位でフィニッシュするのと同じようなジャンプアップである。しかもタンクには予選2位となったバトンより多い燃料が入っているらしい。
「レースのことだけを考えてクルマ作ったので、予選ではクルマは落ち着かなかったけど自分なりに頑張った。最近、トヨタが速いので(自分の)前に来るかと思ったけど来なかったから」
イギリスでの不完全燃焼の雪辱を晴らす布石は打てた。バトンがフランス〜イギリスと連続入賞し、琢磨自身もカナダ以降予選シングル・ポジションが続いているだけにここホッケンハイムもまたポイント獲得のチャンス。
しかし、オープニングラップ、フィジケラに追突するアクシデントで不測のピットイン。ノーズをそっくり換えロスがたたって12位。第1スティントの追い上げのペースは悪くなかったが、それだけにフィジケラとの接触が痛かった。
「スタート自体は順位を落としもせず上がりもせず、トゥルーリの方が出だし若干よかったんですけどこれは抑えた。その後ウエーバーが目の前にいて、1コーナーであまりにもブレーキ早かったんでボクは内側に逃げるように飛び込んで行って。1コーナーで進路が狭まって軽く接触する形で。その時はダメージなかったんですけど。2コーナーでも目の前でいろいろあって、ま、なんとか出て、加速して、2コーナーの後ストレートに入るところはいつも全開なんですけど、フィジケラの真後ろについてて、その前に誰かいたと思うんですけど、何があったか分からないんですけどね。そのコーナーの出口のところでフィジケラがアクセル・オフして、まったく避けきれずにそのまま接触という形で……」
その後トゥルーリを抑えて走行。
「第1スティントはなんとか抑え切ったんですけど、中盤から後半にかけてマシンのバランスも崩れて来てあんまりペースも上げられなく、非常にきびしいレースでした。コーナーによってアンダーステアが出るところとオーバーステアが出るところと安定してなくて、主に低速コーナーから中速の出口のトラクションがなくなった。スタジアム・セクションに入っていくところはオーバーステアも強かったし。なんかこう全体的なグリップ感があんまりなかったですね。ボク自身も楽しみにしてただけにね、すごく残念です」
2コーナーの接触がすべてだった。流れに乗りかけているのに、ほんのちょっとしたことで乗り切れない。強い運の後押しが要るのではないか。
レース後、HRDの中本修平エンジニアリング・ディレクターは「ラルフの前(6位)でチェッカー受けられたよな」と言い、ホンダの橋本健F1車体技術開発責任者は「二人揃ってポイントというのはなかなか難しい」と、バトン今季初入賞の喜びも半減といった表情。誰もがそれだけ琢磨に期待を掛けているのだ。
「すぐ1週間でレースなんで、もう一度頑張ります」
そう言い切った琢磨の次戦ハンガリーに期待したい。