カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:東京(日本)「マラガのひまわり」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2004/11/09 00:00
外苑前のカフェで偶然、耳にした音楽がきっかけで
'82年スペインW杯の記憶が甦ってきた。車窓から見た
一面のひまわり畑。東京にいても、僕は音楽で旅をしている。
大久保のマヨルカ移籍を報じるニュースが舞い込んできた。マヨルカ島はとっても良いところなので、もし移籍が実現したら、大久保ファンならずとも是非どうぞといいたいが、いま僕の嗜好はといえば、スペインではコスタ・デル・ソルの中心地、マラガにある。マラガもまたマヨルカ島に負けないリゾート地……だからではない。マラガであるワケは曲だ。音楽だ。
好天に恵まれたある日の午前、外苑前のカフェにふらりと入れば、店内にとてもナイスな日本語の女性ボーカルが流れていた。
「これ誰ですか?」。感激のあまり、お店のお兄さんに尋ねれば、一瞬、えっ、あなた知らないのってな表情を向けられた。少なくとも僕には、そんな気配が感じ取れた。
海外滞在が長い僕にとって、日本の音楽は大の苦手だ。紅白歌合戦出場歌手の約半分は、名前と顔が一致しない。この場合も、コンプレックスに襲われたが、開き直ることも忘れない僕は、逆に店員さんの答えに「へー」と素人丸出しに驚いてみせた。口から出た名前が、およそ日本人ぽくなかったことも輪を掛けた。
アサ・フェストゥーン。「タワーレコードなんかに行けば、すぐに買えますよ。オリジナルも何枚かでてますが、リミックスも最近発売になって、そちらの方も人気です」
さっそく渋谷のタワーレコードに出かけ何枚かを購入。そして「マラガ」という問題のキーワードは、須永辰緒というミキサーがリリースした最新のコンピレーションの中に含まれていた。「マラガのひまわり」。
作曲者はいったい誰なのだろう。マラガといえば、僕だってひまわり! と叫びたいくらいだ。この曲を聴きながら、初めて行ったスペインで見た、マラガ郊外に広がるひまわり畑に記憶を蘇らせば、何ともいいようのない感慨が押し寄せた。
時は'82年。スペインW杯。マドリー発の夜行電車が、早朝マラガに近づくと、車窓は一面、黄色いひまわり畑に覆われた。耳に突っ込んでいたイヤホンの音源は、世の中に登場したばかりのウォークマンで、その時、流れていたのは、間違いなくロキシーミュージックのアバロンだった……。
回想に耽っていると、途端にひまわりが食べたくなった。ひまわりは美味い。もちろんその種なのだけれど、それはスペイン人にとっては欠かせないサッカー観戦のお供である。殻を歯でカチッと割り、速いテンポでペッペとやる。すると、不思議に集中力が芽生えてくる。観戦に良い感じで没頭できる。というわけで、おかげさまでいまや僕は、スペイン人に負けないほど、ひまわりの食べ方が巧い変な日本人になってしまった。「マラガのひまわり」は、美味しい曲。
一方で、音楽はいまやI podの時代。僕の40ギガ製の中にも、3千数百曲が内蔵されている。
マックにはiTunesという音楽アプリケーションがあって、その画面には保存されている各曲の詳しいデータが表示される。お気に入りの度合いを星の数で記すこともできる。
だから、ドイツに住む女性音楽家からメールを受信した時、僕は一瞬ハッとした。WEICHIの新譜のある一曲に、キーボードで参加しているので聞いて下さいとメールにはある。WEI
CHIって、見覚えがある名前だなーと思いつつ、さっそく購入したCDを開ければ「Heaven」というタイトルが目に止まった。
iTunesをチェックしてみれば、再生回数は3千数百曲中なんと第8位。5つ星ミュージックであることも判明した。感激のあまり、彼女そのことを伝えれば「Heaven」の作曲、プロデュースまで手がけた人物に、僕が面会した事実があることも判明した。いつか「アディ&プー(アディダス&プーマ)」取材のために、ドイツへ行った時、あるクラブで隣に座った渋いおじさんが、その人だったというわけ。
うーん。僕はあまりの偶然に唸り声をあげた。で、再び彼女にメールをすれば、Raoul Waltonさんというその人物も「8位&5つ星」という僕の高評価に、大満足しているとのリターンが返ってきた。
感激、感激。名曲を手がけた本人からそういわれちゃうと、僕だって目茶嬉しい。「マラガのひまわり」と「Heaven」と、そして「彼女」がピアノで参加している「Pray for Peace」も、とてもクールな5つ星。東京の秋の夜長は、この3曲で決まりだ!