佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
有終は飾れぬも、充実のシーズン
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta
posted2004/11/08 00:00
「今年最後のレースですから、明日はドライでキッチリ戦いたいですね」
ホンダの中本修平エンジニアリング・ディレクターは土曜日の予選が終ったあとそう語っていたが、それは決して気分的な問題ではなく、作戦と大きく関わっていた。佐藤琢磨優勝の可能性がきわめて高かったのだ。
予選はバトン5位、佐藤琢磨6位。中本エンジニアによれば「バトンは大失敗、琢磨はスーパーラップ」だという。バトンは3回ストップ作戦で燃料が少なくマシンが軽かったにもかかわらず5位。いっぽう琢磨はロング・スティントの2回ピットストップ作戦で重かったのだが6位につけた。琢磨より前方のバトン、ポールシッターのバリチェロ、予選4位のマッサは3回ストップ、2位モントーヤ、3位ライコネンはショート・スティントの2回ストップと読めていたから、1回目の給油以降琢磨がレースをリードするシーンが見られる公算大だった。インテルラゴスも決して前車を抜きいいサーキットではない。一夜明ければ琢磨が表彰台の真ん中に立っていてもおかしくはなかった。
だが、好事魔多し、とか。スタートの30分前に降って来た雨がBARホンダと佐藤琢磨の夢を流した。雨が強くなって行けばポールシッター、バリチェロが有利。雨が上がるとすぐにタイヤをウエットからドライに換えざるをえず、紛れが生ずる。スタート直後、状況は後者に転んだ。
4周目にラルフが、5周目にはライコネン、モントーヤ、佐藤琢磨、6周目にはバリチェロが続々とピットインし、タイヤをウエットに換え、ガソリンを補給する。つまり条件的に誰もが琢磨と一緒になってしまい、アドバンテージが霧散してしまったのだ。予選での琢磨のスーパーラップの効力は雨で流された。
アロンソ、ラルフ、シューマッハーらと激しく切り結び、結果は6位。イタリア以降4戦連続通算9回の入賞は見事だが、それだけに雨がうらめしい。レース後中本エンジニアは「ドライだったら勝つチャンスはあったと思いますよ」と、憮然とした表情を見せた。
レース後の佐藤琢磨もやや不完全燃焼の面持ち。
「思いっ切りオーバーシュートしたり、ボクのミスもあったんですが、コンストラクターズ・ランキング2位のために絶対ポイントを取らなければならなかったから、リスクは犯せなかった。ドライ・タイヤに履き替えての第2スティントは1分13秒〜12秒台のタイムだったんですが、あのペースでドーン、ドーンと2回ストップをやりたかったですね」
今シーズンを振り返って「トップグループの中で戦えていい経験になった。11月のテストからこの経験を活かしたい」と語っており、常々「F1でしっかり戦えるようになるにはクォリティに高いレース経験を積まなければならない」と言っていただけに、充実したシーズンを過ごせたことは喜ばしい。ラルフを押さえ、ライコネンに次ぐドライバーズ・ランキング8位(34点)のリザルトが、佐藤琢磨の2004年シーズンの輝きを雄弁に物語っている。