佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
予期していた不調の開幕
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta
posted2005/03/15 00:00
「ごらんの通りですよ」
そう言いながら開幕戦オーストラリアを14位でフィニッシュした佐藤琢磨は苦笑していた。もっとも完走したとはいえチェッカーは受けず、最終ラップはバトンともどもピットに入ったが(1エンジン2グランプリ使用だが新規則によりこれでペナルティなしに次戦マレーシアで新エンジンに載せ変えられる)。
レース中、マシンのバランスは取れていたが全体的なグリップ不足で速さがなかった、というのが14位に終った原因。最後尾の20位からスタートして前車ゴボー抜き。オープニングラップはシューマッハーを抑えて14位に上がっていた。ところがそこからなかなか順位が上がらず、レース中トップ10圏内に入ることさえもできずじまい。どうしようもなかった……それが佐藤琢磨の開幕戦オーストラリアのすべてだった。
マシンもだろうが、金曜日からの流れもよくなかった。大雨用タイヤを装着しなければ真っ直ぐ走れないような雨の予選でチームが判断を誤り、雨晴れ兼用タイヤで琢磨をコースに送り出した。ために、雨でタイヤを滑らせてスピン〜クラッシュ。
それを帳消しにする抜群のスタートを決めたのに、今度は速さが足りない。おまけにピットストップももたついた。ピリッとしたところがまったくない緒戦だった。
木曜日午後、金曜日の初試走を前に、琢磨はこう言っていた。
「開幕戦の目標? エ〜、なんて言ったらいいかなぁ、ウ〜ン、自分自身は去年よりもずっと準備ができてるしね、ストレートに勝負をしたいなッ! という気持ちでいっぱいなんですけど、こればっかりは走ってみないとなんとも言えない。もちろんトップは目指しますけども、ウ〜ン(数秒の沈黙)、自己ベストですよね。とにかくポディウムだと思いますね、まずは。ここの段階でもしポディウムに届けば今シーズンは相当いいものになるだろうし、届かなかったとしてもあきらめるつもりないし、とにかく自分はまだトップに立ってないわけですから、自己ベスト更新するために全力尽くします」
言い淀みが多かったところをみると、この時点で3日後のパッとしないレースの行方を透視し、予感していたのかもしれない。
ミスがあったわけでもない、スピンもコースオフもしなかった、しかし不完全燃焼の思いが残る。これは勝負事でいちばん悪いパターンなのではないか。悔やむような失策があったくらいの方が、明日につながる。「なにくそ、次のマレーシアでは!」という意気込みが感じられない開幕戦だった。
右肩上がりだった2004年。しかし今年は集団の中に埋もれてのスタートとなった。急務はマシンを速くすること、これしかない。速くて壊れるマシンに泣いた昨年。しかし今年は速さのピントが合わないマシンでの船出となった。それをどうハンドリングして行くか、佐藤琢磨の新たな挑戦が始まった。