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横浜ベイスターズ「意識の変革」 内川聖一/村田修一
text by
矢崎良一Ryoichi Yazaki
photograph byKohei Yauchi
posted2008/11/20 21:37
とにかく波の大きい選手だった。1カ月で4割以上の打率を残したり('07年8月)、1試合3本塁打('04年5月18日)、今年のオールスター戦でも5打席連続ヒットと、乗っている時には手が付けられない。だが今までは、そこで一歩歯車が狂うとガクンと急降下する。
「なぜ維持できないんだろう」と悩んだ。
打率の浮き沈みを楽しく感じていた。
怪我が多かった。突然右手の握力が低下し、原因を調べたところ、特徴でもある尖った顎の骨格が右側に曲がっているため頚椎の神経を圧迫していたという、笑うに笑えないような話もあった。
「体力面の不安もあったけど、やっぱりメンタルです。浮き沈みが激しかったから。良い時は良いけど、悪くなるととことん悪い。そういう波をなくして、結果が出ない時にも出来る限り精神的にはノーマルな状態でいようと。だから今年は一喜一憂しなくなりましたね。打った時は『ああ打った』、打てなければ『まあしょうがないや』と、切り替えが出来るようになった」
打率トップに浮上し、そのまま高打率をキープ。しかしそんな精神状態だから、数字を意識したのは残り10試合を切ってからだという。それまではスコアボードに表示される自分の打率を見て、人ごとのように、「うわぁ、すげえ打率だな」と思いながら打席に立っていた。日々、打率が上がったり落ちたりするのが楽しかった。「ああ、なんか野球やってんな、俺」と思っていた。
「今までも、注目されたい、一番になりたいという気持ちはあったけど、なかなかそこに行き着けない自分がいたんです。でも今年は、もしかしたらそこに行ける可能性があると思ったら、毎日がすごく楽しくて。シーズンが終わって、首位打者が確定してホッとした部分もあるけど、これで終わっちゃうのかっていう寂しさもあったんですよ。
でも、今年一年間、とことんヒットにこだわって、精神的にもとことん打ち続けたつもりなんですけど、まだ上を見たらもっと打ってる人がいるわけじゃないですか。いや、凄いところで野球をやっているんだな、という気持ちになりますよね」
内川はプロ野球選手としての自分を妙に客観的に見ているところがある。
(以下、Number716号へ)