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悪のヒーロー的な代理人を
主人公にした意欲作。
~本城雅人著『オールマイティ』~ 

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posted2011/04/02 08:00

悪のヒーロー的な代理人を主人公にした意欲作。~本城雅人著『オールマイティ』~<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

『オールマイティ』 本城雅人 文藝春秋 1714円+税

 メジャーリーグで3年連続ホームラン王の韓国系アメリカ人は、実は日本人かもしれない。その正体を探る新聞記者がたどり着いた事実とは……。奇想天外な設定ながら、豊富な取材に裏打ちされたデビュー作『ノーバディノウズ』で第1回サムライジャパン野球文学賞大賞を受賞した気鋭の作家が、5作目となる小説を発表した。

 今回はエージェントが主人公。金の亡者と言われる敏腕代理人の善場圭一は、以前に担当した人気球団・帝都ジェッツのスター選手・瀬司英明の失踪の捜索を依頼され、調べていくうちに秘められた過去の事件が浮かび上がっていく。

「書くのにすごく時間がかかりました。今までは『スカウト・デイズ』なら裏取引、『嗤うエース』なら八百長というように何かテーマがあった。今回も、ただの殺人事件なら刑事が解決すればいいわけです。代理人を主役にするにはどういう事件がふさわしいのかを考えて、ストーリーを組み立てていきました」

ダーティなイメージが付きまとう代理人を主人公にした理由。

 善場自身も元プロ野球選手だが、代理人といえば、まずは球団からどれだけ金を引き出せるかが腕の見せ所。だが日本では、いまだにダーティなイメージがどうしても付きまとう。「世論の判断は曖昧です。年俸1億円だった選手が『来年は3億欲しい』と言うと、“何言ってんだ”となり、それに対して球団側が『2億円』というと、今度は“選手が可哀想”となる。さらに『それならFA宣言させる』云々となると、最後は代理人が悪者になる。代理人は割に合わない役なんです」

 悪のヒーロー的な代理人を主人公にしたら面白い。だが、そんな彼らも、金のためだけに悪者になろうとするだろうか。こいつのためなら命を賭けてもいい、そんな選手との信頼関係をミステリーで描きたいと考えた。

「お金と、プラスアルファが大事だと思ったんです。なぜそこまでするのか、という部分ですね」

 アメリカで、A・ロッドやマダックスなど有名メジャーリーガーを数多く手がけてきたスコット・ボラスという代理人がいる。高額契約のみに執着する、など批判も多い人物だが、「もし彼が、選手のために悪い部分をすべて受け止めてあげているのだとしたら、我々はすでにボラスの戦略にはまっているわけです」。

【次ページ】 20年間の記者生活が可能にしたリアリティのある記述。

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