「菅野君は大谷翔平のダミーだった……っていうんですよ。前の年に日本ハムが菅野君を指名したのは、最初から獲れないことを見越してのことだった。当時の菅野君は、とにかく、かたくなにジャイアンツ一本でしたからね。そうすれば、翌年、大谷君のドラフトで、巨人は菅野を指名せざるを得ないわけですよ、『巨人命』を貫いてくれたわけですから。

　大谷君のメジャー志向は、もう彼が2年生の夏ぐらいから、僕ら（スカウト間）では知れ渡ってましたし、それでも行く（指名する）としたら、ジャイアンツだけだろうって、これも僕らの定説みたいになってました。そのジャイアンツが菅野指名に縛られることになれば、自分のとこで一本釣りできる。日本ハムには、そういう読みがあったんじゃないか。まあ、誰が考えたんだか、話としては面白いですけど、ほんとのところ、獲れなかった者のねたみ、やっかみ……そんなところなんでしょうけどね」

　日本ハムと大谷翔平選手が、「投打二刀流」への挑戦を掲げた頃、球界はその是非や実現性について、騒然となっていた。

球界のご意見番も「絶対、無理」と思った“二刀流”

「絶対、無理です。第一、バッティングとピッチングと両方の練習をするなんて、物理的に時間が足りないでしょう。野球をなめちゃいけない」

　球界のご意見番として、日曜・朝の情報番組にご意見番として出演していた張本勲氏が、決然と言いきっておられた記憶も、今となっては懐かしい。

賛否両論渦巻いたが、MLBでも見事な二刀流を披露しいまやリーグの顔役にもなった　©Nanae Suzuki

　私自身も「そちらに一票」の立場だった。

　既存の野球界の前例をすべてひっくり返して、新たに、とてつもない次元の「前例」を、次々と更新しつつある大谷翔平選手。

　今、ただひとつ思うことは、天才には「天才のものさし」をあててみないと、決してその本当の身の丈は測りきれない……ということ。

　そんな野球史上最高の天才に、あさはかにも「常識のものさし」をあててしまったこちらのほうが、笑ってしまうほど愚かだったのかもしれない。