「稲本（潤一）と伸二がボランチを組んだ試合で彼はゴールも挙げたけど、凄くチーム全体をコントロールしていた。伸二は守備が巧くないようなイメージがあるかもしれないけど、危険な場所を察知できるからそこをきちんと埋められる。だから、イングランドの攻撃をワンテンポ遅らせることができていたし、なかなか人に見えないことを実行していたんだ」

04年の日本vsイングランド、ベッカムのパスコースを切りに行く小野　©JIJI PRESS

　風間さんは「自在に操れるから、ボールを運ぶこともできるんだよね」「（マークを）外したりするのも巧いんだ、彼は」と小野の才能を嬉しそうに、かつロジカルに語り続けた。ただそれと同時に、惜しく思うこともあったようだ。

「昔のサッカー理論が、小野伸二についてこれていなかった。当時は伸二を見た全員が〈巧い〉と言ったけど、じゃあ何が具体的に巧いのか？　それが理解できていなかった。言葉にしても〈ボール扱い、リフティングが巧いよね〉くらいでしか表現できてなかったし、プレーする味方も〈小野さんに預ければパスがどこにも出てくる〉くらいの考え方だった。つまり、伸二は本当の才能を誰にも気づいてもらえずにサッカーをやっていたわけなんだ」

メッシやマラドーナに近い。天才的なサムライだね

　風間さんが指揮を執った時代の川崎フロンターレならば中村憲剛に大久保嘉人がいたように、もしくは現在ヨーロッパで活躍する三笘薫や久保建英、堂安律のような才能が当時の日本サッカー界にいれば、小野のポテンシャルはさらに発揮されていたかもしれない。しかし“孤高”であっても、長年代表で主力を張り、フェイエノールトでUEFA杯優勝を経験するなど、日本サッカーに歴史を刻んだのも事実だ。

フェイエノールト時代の小野　©Sports Graphic Number

　現在、サッカー界は国内外問わず様々な科学的知見を活かし、トレーニングにフィードバックしている。小野やジダンが見ていた世界とは何か。彼らがパスを出す前に見ていたものが明らかになるのもそう遠くはなさそうだ。テクノロジーの進歩によって、次世代の才能を育むためのシステムがようやく整い始めてきた、とも言える。

「やっぱり伸二は天才的なサムライだよね。（技術という）船に乗っていたら自然と外国に着いちゃったようなもんだよ」

　20年前から世界に誇るべきフットボーラーは日本にいた。しかし日本サッカーがその才能を最大限に活用できていたのか？　という無念さも残る。

　風間さんは小野を「孤独な天才」と評した。そして、こう言った。

「俺の中では一番巧い日本人選手だね。メッシでもマラドーナでもないんだけど、その境地に近い選手の一人だよ」