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小野伸二は“孤独な天才”だった?「シンジは本当の才能を気づいてもらえず…」「メッシ、マラドーナの境地に近い」風間八宏が語る核心
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byRaita Yamamoto
posted2023/09/30 11:03
日本サッカー史に残る天才MF小野伸二。引退しても珠玉の技術の記憶は永遠に色褪せることはない
「俺だけ8ケタとかバンバン言えたんだ。6ケタくらいで止まる森保(一)や高木(琢也)、横内(昭展)に対して〈マジメにやれよ、お前ら〉と言ったら驚かれたね」
風間さんや小野にとっては当たり前の認知能力も、他の選手からすればそうではないのだ。
「記者がイタリアで取材してみると、俺と同じくらいの映像記憶能力を持っていたのが3人だけいたんだって。そのうちの2人はロベルト・バッジョとサビチェビッチだったそうだよ。圧倒的な止める蹴るの技術があれば、ボールから目を切ることもできるしね。ボールを受ける時に〈しっかり止めよう〉とずっとボールを見ている選手と、ボールを止める最後の瞬間だけ見ればいい選手では、ピッチ全体を把握できる時間が違ってくる。伸二の場合、ずっとボールを見ているということはないよね? その技術はメッシとも共通している」
伸二の場合、ワンタッチのプレーで遊んでいた
確かにメッシやマラドーナが左足から繰り出す必殺のパス、ロナウジーニョのノールックパスと同じく、小野の放つパスには「え、いつそんなスペース見えてたの?」と驚かされる。ただ、風間さんは初めて見た時からそのセンスの高さを感じていた。
「俺らもドリブルするとき〈相手と遊んでいる〉感覚を持っていたんだけど、彼の場合はワンタッチのプレーで遊んでいたんだ。伸二はワンタッチで意外性のあるボールをポンポンと出していく。その意外性を作り出す土台となるのは〈時間と場所〉の感覚。〈ここにボールを送ればチームメートがいる〉と伸二が瞬時に判断して、ボールの種類や速さを調整する。それは世界の超一流と共通するもので、高校生の頃から感心させられたね」
小野と言えば――中田英寿の鋭い「キラーパス」とは対照的な――柔らかな球足が「エンジェルパス」とも表現されていた。それは味方や対戦相手などピッチ内の状況を把握できているからこそ、絶妙のパススピードで受け手に届けられるのだろう。
「例えばジダンのような超一流のプレーヤーを見ていて、伸二は同じ感覚で〈こいつはこんな感じで状況が見えているんだな〉とか、たぶん分かるはずだよ」
昔のサッカー理論が、小野伸二についてこれていなかった
空間把握能力の例として挙がったのは、ジーコジャパン時代のイングランド戦('04年6月)。風間さんが称えたのは小野を取り上げる際に忘れがちな守備面だった。