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追い詰められた大阪桐蔭「球場全体から手を叩く音が…」“令和の番狂わせ”下関国際の4番バッターが証言する「逆転直前の異様な空気」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/22 11:05
下関国際の躍進の立役者、仲井慎
「甲子園に来たら、気持ちよく振りたいものじゃないですか。でもうちの選手はそういう気持ちを持っていない。2ストライクに追い込まれて、でも、ランナー1塁です。じゃあ、どうしますかというフリーバッティングをずっとやってきたんで。基本的には、みんな窮屈な打ち方をできるんです」
西谷も下関国際の打撃の特徴は心得ていた。
「データを担当しているコーチから聞いていました。大振りしないというか、当ててくるというか、しぶといというか、食らいついてくるというか。三振しない、アウトにならないバッティングをしてくると」
追い込まれた松本はバントの構えからバットを引き、コンパクトにスイングすることに努めた。そして5球目、外の緩い変化球にバットを合わせ、大きく空いていた三遊間をゴロで抜く。インパクトの瞬間、バットを止めるという、方向性を出すことを優先した打ち方だった。
戦前、相手が大阪桐蔭に決定し、坂原が4つか5つある作戦のうちの一つを選択したと話していたが、このケースも、その作戦の延長線上にあったのだという。
一死二、三塁…揺れるスタンド
あまりに鮮やかで、かつ粘り強い1、2番の連打に球場のボルテージがもう一段、上がった。
0アウト一、二塁から、続く3番・仲井は送りバントを成功させ、1アウト二、三塁とチャンスを広げる。
3万4000人の観客で埋まったスタンドが波を打ち始める。静寂を保っているのは一塁側のアルプススタンド、大阪桐蔭の小さな応援エリアだけだ。続いて打席に入った4番・賀谷勇斗の回想だ。
「球場全体から手を叩く音が聞こえてきて。今まで聞いたことのないような音でしたね。ここで終わらせることはできないと思ったので、絶対に打てるという思いで打席に入りました」
何万人もの割れるような手拍子が、下関国際の選手の背中を押し始めていた。
＜#1から続く＞ ※次回掲載は8月24日（木）予定です。
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