仲井は松尾に対し、先発の古賀以上にインコースを徹底した。初球、あわや体に当たるのではないかというくらい厳しいコースを突いたため、松尾は体を大きく「くの字」に曲げた。そこから仲井は、実に6球続けてインコースの直球を続け、ボールカウントは3ボール2ストライク。そして、最後は外のスライダーで、やはり空振り三振に仕留める。坂原の証言だ。

「インコースを絶対に使うというのは約束でした。なので、しつこいぐらい行きましたね。もうスライダーだろうってところでもインサイドを突いた。あそこまでインコースを使えれば、スライダーは外いっぱいに投げる必要はない。真ん中低目でも振ってくれる。最後、バッターは、もう踏み込めない状態になっていたと思います」

　松尾は初球、際どいコースを攻められたとき、仲井に強い視線を送った。しかし、そんな自分をたしなめるように、すぐさま笑顔を作った。一連の振る舞いには松尾の強気と、そしていくぶんの弱気も表れているように映った。

　坂原がこんなエピソードを明かす。

「ゲーム前半、松尾君は打席に入る前に、わざわざちょっと遠回りをして三塁側ベンチと右打席の間で、僕の方に向かって素振りをしていたんですよ。僕の目を見て、『シュッ』って息を吐き出して振るんです。でも、後半はほとんどやらなくなっていましたね」

2022年夏の甲子園、大会屈指の好バッターだった大阪桐蔭の3番・松尾汐恩 ©Hideki Sugiyama

仲井の完璧リリーフ…そして。

　6回裏、7回裏に続き、仲井は8回裏も、次の攻撃を鼓舞するかのようにドラマチックな締めくくり方をした。

　9回表。1点を追う下関国際の先頭は1番・赤瀬健心だった。

　左バッターの赤瀬健心は2ボール2ストライクと追い込まれながらも、坂原のアドバイス通り、スライダーを真芯で捉えた。球場の空気が爆ぜる。糸を引いたような打球がセンターの前で弾んだ。

　0アウト一塁。

　坂原が思い出す。

「9回は4－4の同点で終わると、先攻であるうちの負けパターン。なので、赤瀬が出た時点で、もう送りバントは考えてないです」

「三振しない」下関国際の戦い方

　続く2番・松本竜之介も左バッターだった。松本は1、2球目、ベンチの「待て」のサインに従い、瞬く間に2ストライクと追い込まれてしまう。

　しかし、1番・赤瀬同様、ここからが下関国際の真骨頂だった。坂原は独特の表現をする。

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