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浦和の心のスキに入り込んだもの。
CWC、「1つ勝てばレアル」の怖さ。
posted2017/12/11 12:30
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph by
AFLO
喪失感、失望、後悔――。
浦和レッズは、本当の意味でのクラブワールドカップの戦いを始めることができなかった。9日の初戦で開催国代表アルジャジーラ(UAE)に0-1で敗れ、準決勝以降の戦いに進出することなく、5位決定戦に回ることが決まった。
「1つ勝たないと、何も始まらない」
11月25日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝第2戦、アルヒラル(サウジアラビア)を下して優勝を決めた試合後に、槙野智章が発した言葉だった。そしてこの言葉は彼のものだけではなかった。
クラブワールドカップの開催地、UAE入りしたチームが初戦の前日練習を終えると、私が取材した限りで4人の選手が同じ言葉を口にした。恐らく、これはチームの合言葉として共有されているものなのだろう。そう、思っていた。
だからこそ、この初戦を突破した時に選手たちにその思いを聞いてみたいと願っていた。
しかし、このアルジャジーラに敗れた試合の後に矢島慎也に聞くと、そうした事実はないのだという。彼もまた、試合前にその言葉を発した1人だった。
矢島は「各々が、そうした思いを持っていたということなんだと思います。特に、チームでそういう言葉を共有しようとしたとか、そういうことはなかったので」と、そう話した。
失うもののない相手に、ちらつくレアル。
浦和の選手たちが、初戦の対戦相手が決まった後に何と戦っていたのか。それは、心のスキに入り込もうとする慢心や油断といったものだったのだろう。試合前日の記者会見で、アルジャジーラのヘンク・テンカーテ監督は「Nothing to lose」という言葉を3度も口にしていた。我々に失うものはないのだと。
浦和はアジア王者としてこの大会に参加していた。いかにこの大会が「クラブ世界一を争う大会」という名目であったにしても、開催国代表と大陸王者、そして欧州や南米の代表とその他の地域の代表の間には、サッカーの世界では明確な壁がある。
浦和にとって、開催国代表とのゲームには失うものがあった。勝って当然という空気が醸成され、その後に準決勝で欧州王者レアル・マドリー(スペイン)と対戦する組み合わせも決まっている。先を見たくなる思いを必死で抑え込むために、選手たちの口から出ていたのが「1つ勝たないと」という言葉だったということなのだろう。