Jをめぐる冒険BACK NUMBER
憲剛が「凄まじい」と驚く守備力。
大島僚太が近づく“万能”の領域。
posted2016/06/29 11:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
あれはリオ五輪アジア最終予選が開幕するひと月ほど前だったから、2015年12月のことになる。建て替え前のクラブハウスの一室で、川崎フロンターレの大島僚太が語り始めた。
「昔、『プロはズバ抜けた武器がないといけない』って言われたんですけど、僕はそうは思ってなくて。どれだけすごい武器があっても、何かしら策を講じられたら、防がれることがありますよね。そうした不安があるまま試合に出るのが、嫌なんです」
分かります? とこちらに問いかけるような視線を向けて、さらに続けた。
「だから僕は、何か一つ突き抜けるのではなく、全部、高めたいんですよ。目指すのはすべての要素を爆発的に大きくすることですね。ボン! って」
ボールを両手でつかむようなしぐさをすると、それを一気に広げた。
「サッカーに関して苦手なことがあるのがすごく嫌で、何かできないことがあるのが悔しいんです。当然、ヘディングが弱いって思われるのも嫌だし、守備ができないって思われるのも悔しい。でも守備に関しては、取り方のコツを掴み始めているので、そこはちょっと大きくなったかなって」
この先、最も磨いていきたいものは何か、という質問に対する答えだった。全部、高める。それも、爆発的に大きく――。言葉にするのは簡単だけど、実現するのは難しい。ところが、あれから半年が経った今、かつては決して得意ではなかった分野において、大島は逞しく成長を遂げている。
散らすだけでなく、運び、飛び出し、奪い、発言する。
6月25日に幕を閉じたJ1リーグのファーストステージ。終盤、リーグ1位に立っていた川崎は、最終節直前に鹿島アントラーズに首位を奪われるまで、優勝に最も近いポジションにいた。その躍進の中心にいたのは、まぎれもなく大島だ。
中盤でボールを散らすだけでなく、ボールを前に運びもすれば、相手のペナルティエリア内まで飛び出しもする。さらには、日本代表監督のハリルホジッチにも認められた激しい寄せでボールを奪い取り、コミュニケーションの量、発言の重みも増している。