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21世紀の浦和にはいつも啓太がいた。
退団の理由、そして残して行くもの。 

text by

轡田哲朗

轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada

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photograph byJ.LEAGUE PHOTOS

posted2015/11/05 10:50

21世紀の浦和にはいつも啓太がいた。退団の理由、そして残して行くもの。<Number Web> photograph by J.LEAGUE PHOTOS

浦和レッズで数々の栄光と挫折を経験してきた鈴木啓太。その熱はクラブに残り続ける。

「自分の才能は、そこしかない」とは?

 シーズン前のある日のトレーニングで、インターバル走というゆっくりとしたペースとスプリントを交互に組み合わせ、心肺機能を高めるメニューが実施されたことがあった。ここからスプリントをするぞという合図があった瞬間、啓太は首を振って後方を見る動作をしてから走り始めた。その理由は、真のプロフェッショナルと言えるものだった。

「大事なのは想像力ですよね。これをただのランニングと捉えるのか、試合の中でカウンターを受けた場面だと捉えるのか。常に公式戦のことを想定してやるのがトレーニングですよね。僕としては、それが特別なことだとは思わない。とにかく、いつも手を抜かずにやるということ。自分の才能は、そこしかないと思っているから」

 才能の宝庫であるプロサッカー選手たちの中でも、本当に特別な才能を持つ者はほんの一握りだ。当たり前のようでいて、当たり前の一歩先を行く。そうした姿勢が、啓太を一流のプロサッカー選手にしてきた。

 今季、浦和ユースから昇格した茂木力也は、「啓太さんは、細かいところをしっかりやる。いつも試合を想定した動きをするし、ここ何カ月かでそれに気が付いて見習っているところ。僕みたいな若い選手がそうやっていかないと、縮まる差も縮まらない」と、その姿勢に学んでいる。

「猫背なだけだよ」と本人が冗談めかすその背中が示してきたものは、着実に若手に受け継がれている。

啓太「在籍期間が長かったけど、特別だとは思わない」

 取材する側から見ての啓太は、投げかけた質問を自身の中に一度落とし込んでから答えを返してくれる選手だ。だからこそ、言葉の中に彼が持つ哲学が表れる。彼は、チーム全体、サッカー界、あるいは社会全体を俯瞰して捉える。そして、自分が特別な存在ではなく、その一部であると考える。

「年齢と共に走れなくなる選手や、スプリントの回数が減る選手もいる。僕は若干、種類は違うけど、過去の自分の良いイメージのプレーが出せなくなっていくというのは、特別なことじゃないですよね。サッカー選手は毎年入れ替わる。僕は在籍期間が長かったけど、だからといって特別だとは思わない。(契約がなくなるのは)常にサッカー選手としてあり得ることだし、そういう世界。発表することによって周りの人がどう感じるかはあるかもしれないけど、世の中はそういうことだらけだと思う。だからこそ、その時、その時の時間だったり、物事の見方だったりが重要ですよね。その瞬間しかないわけだから」

【次ページ】 「血がつながっていなくたって、本当のファミリー」

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