ブラジルW杯通信BACK NUMBER
ドイツ対フランスは「蛇とマングース」?
個性が逆転した“天敵”同士の激突。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byGetty Images
posted2014/07/04 11:15
ディディエ・デシャン率いるフランスはここまで4試合で10得点2失点と、最も危なげなく勝ち進んできた。屈指のタレントを揃えながら「チーム」にならなかった集団をまとめ上げた手腕はさすがだ。
よく走り、よく働き、よく戦う集団と化したフランス。
一方のドイツからはシャンパン時代のフランスを苦しめてきた不屈の戦士が失われていく。最後の闘将はローター・マテウスだろうか。そのマテウスがキャプテンとして躍動した1990年イタリア大会以来、ドイツは優勝から遠ざかっている。その間、かつてのフランスのように新しいスタイルを模索してきた。伝統の3バック・システム(リベロ+2ストッパー)を捨て、4バックによるゾーンディフェンスを導入。選手の育成にも着手し、高い技術を誇る新しい世代の台頭を促してきた。
デシャンを監督に迎えた今大会のフランスはよく走り、よく働き、よく闘う集団だ。まさにデシャン好みのチームと言っていい。アグレッシブなプレッシングによって高い位置から球を奪い、そこからダイレクトにゴールへ迫る。イタリアの智将マルチェロ・リッピの薫陶を受けたデシャンの采配は極めてロジカルで隙がなく、勝負に徹したリアリズムに満ちている。
両翼を担うアントワン・グリエスマンとマテュー・バルビュエナのスピードを生かしたカウンターは速く、鋭い。ここにブレイズ・マテュイディとポール・ポグバの第2列が走力と運動量を生かして、ダイナミックに絡んでくるから、相手はたまったものではない。
速さ、強さ、高さといったフィジカル勝負で、フランスに勝る国は少ないだろう。近年のフランスが自滅の道をたどった不和や内紛も聞こえてこない。デシャンの卓越した統率力が団結をもたらし、チームは勢いに乗っている。
いまや少数派となったポゼッションを貫くドイツ。
ドイツの戦いぶりは、フランスとは対照的だ。今大会では少数派のポゼッションプレーに徹している。最強バイエルン(ドイツ)のユニットを重用し、今大会屈指のパスワークをもって敵の包囲網を打ち破ってきた。フィリップ・ラームをアンカーに回し、パスワークの要に据えたヨアヒム・レーブ監督のアイディアはバイエルンの指揮官ジョゼップ・グアルディオラの起用法に着想を得たものだ。
懸案の1トップにトーマス・ミュラーを抜擢したのも、そうだ。ペップはしばしばミュラーを1トップに使い、鋭いラインブレイクとエリア内における独特の得点感覚を生かしてきた。レーブの期待どおり、ミュラーはポルトガルとの初戦でハットトリックを記録。持ち味の走力でドイツの攻撃に深さをつくり、サイドのスペースに流れてアシスト役に回るなど、十分な働きをみせている。