野ボール横丁BACK NUMBER
楽天・田中将大の連勝を支える、
ダルビッシュが持たないある“本能”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/09/25 13:15
オールスターというお祭りの場でも、勝負にこだわる投球を見せた田中将大。
打者を抑えること――。
そこから視線がぶれることがない。それが楽天の田中将大の強さだ。
2006年、駒大苫小牧高校3年生の夏。今も語り継がれる甲子園の決勝戦のときもそうだった。
延長15回表、後攻だった早稲田実業のエース斎藤佑樹は「勢いをつけて終わりたかった」と二死後、4番の本間篤史を迎えたところでギアを上げた。140キロ台後半のストレートを連発し、場内が沸く。そして最後は空振り三振に切って取った。
スタンディングオベーションが起きた。
その裏。対する駒大苫小牧のエース田中は、先頭打者に対し、外のスライダーから入り丁寧にストライクを取った。
このとき早実の監督である和泉実は「さすがだ」と敵ながら感服していた。
「普通の高校生なら、あの雰囲気に乗って真っ直ぐを投げたくなるところ。あの冷静な田中君を見て、この回で勝負を決めるのはちょっと難しいかなと思ったね」
野村監督の言葉に決して乗らなかった田中。
そもそも田中は、3年夏は絶不調に陥っていたのだ。それでも夏、チームを全国準優勝まで導いた。そこには、このときのスライダーに象徴されるように、常に相手を抑えることを最優先に考えた配球があったのだ。
プロ1年目、当時、楽天の監督を務めていた野村克也は、ことあるたびに「若々しさが足りない」と変化球勝負に走りがちな田中に苦言を呈した。「打たれてもいいから、もっと真っ直ぐで押していかないと」と。
だが、ここでも田中は、そんな聞こえのいい言葉には決して乗らなかった。
「試合は試すところじゃない。打たれて二軍に落ちるのは僕ですから」
打たれてもいい、という前提で投げることなど田中には絶対に許せなかったのである。
ダルビッシュ同様、プロ7年目でほぼ完成した投球術。
田中が尊敬するダルビッシュ有も、メジャーに渡る前年、プロ7年目で国内ではひとつの到達点に達した感があった。
特にシーズン終盤の投球は圧巻だった。
インコースにストレートを投げ込んでくるとわかっていても、打者は手さえでない――。そんな印象があった。
そして田中も今年、プロ7年目で、ひとつの完成形に近づいた。だが、その投球内容はダルビッシュとは対照的である。