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本調子でない自分をマネジメントする。
巨人・杉内俊哉の“俯瞰する力”。  

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2013/05/15 11:45

本調子でない自分をマネジメントする。巨人・杉内俊哉の“俯瞰する力”。 <Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

昨季は、交流戦の楽天との試合において9回2死で四球を与え完全試合を逃し、ノーヒットノーランとなっている杉内。交流戦通算最多勝記録の更新にも期待がかかる。

ストレートが120キロ台でも粘りのピッチングを披露。

 時に通常より10キロ近く遅い120キロ台後半とストレートに勢いがなく、ボールも先行する場面が多い。そんななか、勝負球であるスライダー中心に粘り、7回無失点と先発の仕事を果たした。

 さらに投球の妙を披露したのが、4月24日のDeNA戦と30日の中日戦だ。

 24日の試合では前回対戦の反省を踏まえ、この時点で21試合、12本塁打と当たりに当たっているブランコに対し、ボールになる内角低めのスライダーで徹底的に攻めて3三振。トータルでも7回1失点、10奪三振と抜群の投球術を見せた。

 30日の中日戦では高い修正能力が光った。

 登板の数日前から右打者への内角のボールが甘いと感じていた杉内はコーチと相談した上で、それまでの一塁側に立ち位置を決めていたマウンドプレートの場所を真ん中にする。この試合、三振こそ2つと昨季の奪三振王の彼からすれば少ないが、その分、制球力が安定し今季初完封を飾ることができた。

「実戦で自分の調子を確かめながら投げていかないといけない」

 ベテランの先発投手たちに話を聞くと、先発としてプロでのキャリアを多く積んでいる投手ほど、自分の状態を仔細に把握することが投手にとって一番重要なことだと言うようになる。

 年間25試合に投げると仮定すれば、そのうち絶好調と言える試合はほんの2、3試合だというのだ。

 だからこそ、絶好調ではない他の登板で、いかに自分本来の投球に近い内容を残すかが大事になってくる。

 プロ12年目、今年で33歳を迎える杉内自身、そのことは理解しているはず。それは、彼のこんなコメントからも想像できる。

「ブルペンで調子が良くても、いざマウンドに上がったら『あんまりボールが行っていないな』と感じることも結構ありますしね。だから、実戦で自分の調子を確かめながら投げていかないといけないんです」

 本調子でない自分をマネジメントする。今季の杉内にはそれができている。前述した投球内容、そして3・4月の月間MVPという結果がそれをしっかりと証明している。

 5月は2試合に投げまだ勝ち星はない。だが、通算28勝9敗という数字が物語るように杉内は5月に強く、交流戦でも1位タイ記録の22勝と好成績を収めている。

 何より杉内は、常に勝ち星に飢えている。彼は自分の信念をこう語る。

「勝ち星を挙げることが全てですから。勝ち負けの波を減らすために、できるだけ多くの試合で自分のピッチングをしていきたいですね」

 勝ちへの渇望。そして、自分を俯瞰し、準備とマネジメントができている限り、杉内が崩れることはない。

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