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日ハム入団フィーバーから半年――。
ソフトボール出身・大嶋匠の現在地。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/08/18 08:02
鎌ケ谷へ二軍の視察に訪れた日本ハム・栗山英樹監督(写真右)と大嶋。灼熱のグラウンドで牙を研ぐ若者の姿は、指揮官の目にどのように映ったのだろうか。
蝉時雨が、絶え間なく聞こえる。千葉・鎌ケ谷にある日本ハムの二軍施設。夏でも冷涼な札幌ドームから遠く離れ、強烈な太陽が照りつける灼熱のグラウンドでは、若き力がハングリーに牙を研ぐ。その中に、大嶋匠がいた。体形は心なしか、引き締まったように思える。体重は入団時に比べ、5キロほど絞れたという。
「バッティングについては、6月の終わりぐらいから、ようやく『こういう感じなのかな』というのが出て来ました。ちょいちょい、ヒットが打てるようになってきた。今の課題はストレートを待ちながら、変化球にも対応できるようにすること。だんだん出場機会も増えてきたので、練習していることを、しっかりと試合に出せるようにしていきたい」
真っ黒に日焼けした、いい顔で語ってくれた。
昨秋のドラフト7位で日本ハムに入団。早大ソフトボール部出身という異色の経歴は、驚きとともに迎えられ、大きな話題を呼んだ。そして、今からちょうど6カ月前。名護キャンプの紅白戦ではプロ初打席、初スイングでバックスクリーンに特大アーチを放った。ド派手なデビューは大々的に報じられ、異競技からの挑戦に注目が集まった。それでも、開幕一軍はならなかった。スポーツニュースがトップで扱い続けた2月の日々を、大嶋は振り返る。
「見たくなかったです、ニュースを。『ほっといて』という感じでした。しんどかった。自分が言ったのと、違うとらえ方をされてしまったり。まだ、そういうのが、ちゃんと分かってなかったんです」
「目標設定用紙」に記した「前半戦で、必ずホームラン」。
例年、キャンプで注目される黄金ルーキーは、アマチュア時代からスポーツマスコミとの距離感をある程度、つかんでいるものだ。学生時代、報道陣とのかかわりがなかった大嶋には、その「助走期間」がなかった。突然、フィーバーの渦中に放り込まれることになったのだから、困惑したのも無理はないだろう。それでも、こう言って笑った。「今では、いい経験ができたなと思います」
鎌ケ谷の二軍寮では、高校教師から転身した本村幸雄教育ディレクターが、選手個々の精神面に心を配り、モチベーションを高めることに尽力している。4月下旬、本村ディレクターへと提出する「目標設定用紙」に、大嶋は記した。「前半戦で、必ずホームランを打つ」
ロッテ・大嶺祐太、渡辺俊介。西武・マイケル中村。いずれも野球ファンならお馴染みのビッグネームと言っていいだろう。大きく報道されることはなかったが、前半戦、大嶋は二軍でホームランを3発、放っている。球界で確かな実績のある、この3人からだ。
「ホームランは正直、打てる気が全然しなかった。1本出ると、『あんな風にホームランって、行っちゃうんだな』という感じでした。一番印象に残っているのは、マイケル中村さんからの一発です。レフトのポール際に打てたんで。ずっと逆方向に強い打球を打ちたいと思って、取り組んできた。まぐれかもしれないけど、打てるというのが分かった」