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内容は6位以上だった可夢偉。
開幕戦で確信した3年目の飛躍。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2012/03/21 10:30
「壊れていなければもっと良かった。何もなければ5位のアロンソの前でしたね」とレース後にコメントした小林可夢偉。次戦マレーシアGP決勝(3月25日)では、さらなる上位入賞を狙う。
「自分たちが、どのレベルにいるかなんていうことを、僕たちドライバーに尋ねられても困ります。だって、僕たちドライバーは走っているとき周りの状況は見えていないですから。それはプレスルームのタイミングモニターで、全車のラップタイムをご覧になっているジャーナリストの皆さんが判断してください。ライバルたちがどれくらい速いかを考える暇があったら、自分たちのクルマを速くすること、そしてそのクルマが持っているパフォーマンスを100%発揮するにはどうしたらいいのかということに、僕は時間を費やしたいですから」
これは開幕戦を翌日に控えた3月15日、オーストラリア・メルボルンで、ある記者の質問に対しての小林可夢偉の対応だった。
確かに可夢偉の言うとおりである。リザルト(結果)から選手やチームをいかに評価するのかが、私たちジャーナリストの生業である。「ジャーナリストが選手に勝因や敗因を聞くことはナンセンスだ」という教えを、私も若かりし日に先輩から聞かされたことがある。
軽く受け流してきた質問に、強く抗った今年の可夢偉。
しかし、こうした質問がこの業界で御法度かと言えば、決してそうではなく、むしろ日常茶飯事のように繰り返されてきたことも事実である。そして、選手もまたそのタブーとも言える質問に答えてきた。
特に勢力図が見えにくい開幕直前のオーストラリア・メルボルンでは、日本人ジャーナリストだけでなく、世界中のメディアもまた、F1ドライバーたちに同じような質問を浴びせていた。
注目すべきは、その質問を軽く受け流すドライバーが多い中、今回、可夢偉がそれに抗ったことである。
多少嫌な質問をされても、その場の空気を壊さず、シャレの効いた答えで周囲を和ませる。それが過去2年間で可夢偉と日本人メディアとの間で構築された関係だった。ところが、F1フル参戦3年目の今年、可夢偉はそれを自ら壊し、新しい自分をアピールしたのである。