#620

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故郷ニューヨークに戻った天才少年。

 彼を初めて見たのは1年前、ニュージャージーで行われた高校のトーナメントでのことだった。会場の一角がざわつき始めたと思ったら、彼、セバスチャン・テルフェアが入ってきた。

 といっても、最初、本人の姿は見えなかった。それくらい大勢の人たちに囲まれていたのだ。人垣の中心にいたテルフェアは、まわりから次々と差し出されるボールやプログラムに慣れた手つきでサインをしながら、ゆっくりと前に進んでいた。彼が動く速度にあわせて輪も動き、さらに膨れていく。その様は、ハーメルンの笛吹きの寓話を思い出させた。

 テルフェアは子供のころからニューヨークの有名人だった。現ニューヨーク・ニックスのステフォン・マーブリーの従弟で、テルフェア自身も小学生のときから天才少年と言われ、常に注目を浴びてきた。

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