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「僕は臆病。エヴァンゲリオンで言えば、シンジくんだね」“不屈の鉄腕”石井大智が連続無失点記録にも全く満足していない理由とは「まだ全然、伸びしろがあると思う」

2025/10/04
頭部打球直撃にも心を乱さず0を並べること48試合。世界新を達成する無双ぶりだが、鉄腕は満足しない。安定感を生む割り切った考え、抑えるための投球。献身と理想の狭間で「諦めた自分」を見つけていた。(原題:[無失点男の本懐]石井大智「自分の記録はただの数字」)

 6月6日。ナイターでのオリックス戦を控え、甲子園では阪神の試合前練習が行われていた。梅雨の蒸し暑さこそあるものの、普段と変わらず選手たちはゲームに向けて集中力を高めている。

 目を覆いたくなるような数時間後のアクシデントを、この時は誰も予想できるはずがなかった。試合開始の約2時間前。練習を終えた石井大智は、全身にじわりと汗をにじませながらクラブハウスにつながる通路へやってきた。その際交わした数分間の会話で、プロ野球選手としてのある信条を語っていた。

「プロの人生でどれだけ投げるかも、いつ死ぬかも決まっていると思う。ただ、そこのレールに乗っていくだけ」

 そこから数時間後の悲劇だった。

 試合は両軍無得点のまま9回に突入し、ピッチャー石井が告げられた。当時は20試合連続無失点中。セーブ場面を任されることも徐々に増えてきた段階だった。先頭で迎えた1番・廣岡大志に対し、1ボールからの2球目。直球を捉えられた痛烈なライナーは、避ける間も無く自身の頭部に直撃した。

「自分の中では、その瞬間を覚えていないんです。ボールも見えていなかった。空間的なもので、真正面でなければ奥行きが分かって避けられたけど、あの時はまっすぐ目の前に打球が来たから。すごく距離感がつかみにくかった」

 三塁ファウルゾーン後方まで転がったボールが、打球の勢いを物語っていた。マウンドに倒れ込む石井に仲間たちがすぐさま駆け寄る。「動くなよ!」。横たわっていると坂本誠志郎の声が聞こえてきた。周囲が見守る中、しばらくすると少しずつ視界が回復し、だんだんとトレーナーの顔が浮かび上がってきた。数分前までの熱気がうそのように、甲子園には静寂が流れていた。

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photograph by Kiichi Matsumoto

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