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《2019年 星稜-智辯和歌山》「120%、出し切った」奥川恭伸が語る‟伝説の165球”と中谷仁監督&主砲の悔恨「あ、俺らって負けるんや…」【令和名勝負プレイバック③】

2025/08/29
マウンドで力投する星稜・奥川(現ヤクルト・スワローズ)
世代屈指の剛腕が見せた鬼気迫る熱投に、強力打線は沈黙し、スコアボードには0が並んだ。両者譲らぬ激戦は延長、そしてタイブレークへ。1点をめぐる攻防の中にあった、悔恨の1打とは。(原題:令和名勝負プレイバック(III)2019 星稜-智辯和歌山「1球が勝敗を分けた死闘」)

 それが死闘の前兆だった。

 プレイボール直後、2ボール1ストライクからの4球目。智辯和歌山の1番打者・黒川史陽(楽天)は、左打席の中でわずかに足を引いた。星稜の先発、奥川恭伸(ヤクルト)の右腕から放たれた149kmのストレートが内側に食い込んできたからだ。

 ところが、主審の判定はストライク。智辯和歌山を指揮する中谷仁はベンチの中で思わず苦笑いを浮かべた。

「今日は(ストライクゾーンが)広いな、と。これは苦戦するかなと思いましたね」

 2019年8月17日、阪神甲子園球場で開催された全国高校野球選手権大会は3回戦に入っていた。この日は土曜日ということもあり、スタンドは4万5000人の大入り満員。第2試合の智辯和歌山――星稜のカードは、MAX154km右腕の奥川を智辯和歌山の強力打線がいかに攻略するかに注目が集まっていた。

 試合前、中谷は楽観的だった。

「いいピッチャーだとは思っていましたけど、正直、3点から5点くらいは取れるんじゃないかな、って思ってたんです」

 智辯和歌山打線にはのちにプロ入りする野手が3人も名を連ねていた。先頭の黒川、さらには2番の細川凌平(日本ハム)と6番の東妻純平(DeNA)だ。中谷がそう自信を持っていたのも無理はなかった。

中谷仁は足をつった奥川に対して、ベンチから声援を送ったという Hideki Sugiyama
中谷仁は足をつった奥川に対して、ベンチから声援を送ったという Hideki Sugiyama

試合前の奥川は「正直、勝つイメージが湧かなかった」

 いつも通りだった智辯和歌山とは対照的に、この日の奥川は珍しく悲壮感すら漂わせていた。温厚そのものだった彼が試合前、報道陣にこう語っていたのだ。

「大事な一戦。ほんと、怖いです。終わったら倒れるくらいの気持ちでいきたい」

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photograph by Hideki Sugiyama

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