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「キミが巨人の監督に決まったよ」長嶋茂雄から原辰徳への“禅譲の儀式”は10秒で終わって…2人だけが共有する感情とは?「いい意味でドライです」

2025/08/13
巨人の「4番・サード」を長嶋から受け継いだ原
ミスター2度目の指揮官復帰を最も望んだ“選手”原辰徳を待ち受けていたのは、恩師の思いがけない起用法だった。だが、“監督”原辰徳には、あのとき見えなかったものが見えている。巨人軍の哲学はいかにして受け継がれたのか。(原題:[帝王学伝承の内幕]長嶋茂雄×原辰徳「非情と愛情と」)

 儀式は一瞬だった。

 2001年9月27日。東京ドームで行なわれた巨人対広島戦の試合後のことだった。

 この年の巨人は、残り3試合の時点で、ペナントを逃すことがほぼ確実となっていた。この日も乱打戦の末に10対11で敗れ、試合後の巨人のロッカールームには重い空気が流れていた。その中でヘッドコーチの原辰徳は、いつも通りに試合の反省と翌日の予定の確認のために監督室のドアをノックした。

「どうぞッ!」

 甲高い声を受けて原はドアを開けた。正面のデスクに座っているのは背番号3のユニフォームを着た長嶋茂雄だった。

「失礼します」

 一礼して原が監督室に入ると、珍しく長嶋は椅子から立ち上がり、原の方に歩み寄ってきた。そして……いきなりだった。

「おめでとう。来年からキミが巨人の監督に決まったよ」

 そう言うとさっと右手を差し出した。

「エッ?」

 一瞬、何が何だか解らないという表情を見せた原の右手を、長嶋は力強く握り締めた。

「キミが来年は巨人の監督になるんだ」

 長嶋はもう一度、繰り返すと、今度は両手で原の右手をしっかりと握り締めた。

巨人監督の禅譲の儀式は10秒で終わった

 長嶋から原へ。巨人監督の禅譲の儀式は、こうしてたった10秒ほどで終わった。

「本当に一瞬の出来事で、まったく実感が湧かなかった」

 原はそのときのことを振り返る。

「それまでは長嶋さんに、そんな素振りはまったくなかったですからね。だから僕はずっと翌年もヘッドコーチをやるつもりでいました。そういう立場でチームのことを色々と考えたりしていましたから」

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photograph by Bungeishunju

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