#1123
巻頭特集

記事を
ブックマークする

《大関の肖像》琴櫻が語る“横綱への思い”、やるべきこと、高校時代の「鼻血と鼻水と涙」…埼玉栄・山田道紀監督「横綱になると思いますよ」

2025/07/05
2024年九州場所にて初優勝を果たした琴櫻
祖父は53代横綱・先代琴櫻、父は元関脇・琴ノ若、生家は佐渡ヶ嶽部屋。力士を宿命づけられた男の相撲を狂わせた重圧は、すでに過去に捨てた。あとは「やるべきことをやる」。向かう先に、最高位の景色が待っている。(原題:[大関の肖像]琴櫻「まれなる者は境地へ進む」)

 静かな土俵に静かな火花が散っては、また散り、もういっちょ散った。分厚い肉が骨のきしみを覆い、衝突のたび、他のいかなる世界にもない音は響いた。

 佐渡ヶ嶽部屋の稽古は進む。

 元関脇琴ノ若である親方は、聞き取るのに集中を要する声量で、本当に大切な何事かを力士に授ける。

 57歳。いまだ、いい男である。

 親愛なる読者がページを開いてくださる本誌は「1123号」である。32年前の「324号」の表紙を当時の琴の若實哉はモノクロームの横顔で飾った。

 スポーツにおける「いい男」の研究。

 それがタイトルである。

 歳月を経て、正方形の座の特大木製チェアにワイン樽のサイズの腰を沈め、射るような視線を斜め前方に送る。

 その先に、また「いい男」がいた。堂々かつ悠々の風情でオーラを発散、くらいつく後進を寄せつけない。

 琴櫻将傑。大相撲にあって現在はただひとり、大関の地位にある。ということは広く列島の願いは、ひとえに雄大な背中にのしかかる。

 さあ最高位へ。横綱へ。

 昨年11月の九州場所において優勝を遂げた。14勝1敗。父にして師、佐渡ヶ嶽親方は、報道陣の目を避けて駐車場へ向かい、自家用の白いアルファードの後部座席モニターの歓喜を網膜に焼き付けた。

2024年11月の九州場所にて“琴櫻”の名で悲願の初優勝を果たした Asahi Shimbun
2024年11月の九州場所にて“琴櫻”の名で悲願の初優勝を果たした Asahi Shimbun

 すぐに相撲記者たちは「泣きましたか」なんて不躾な声をかけるわけだが、そんなこと、鎌谷家の秘密に決まっている。どのみち一瞬の親心はたちまち封じられ、師匠と弟子の暮らしに戻るのだ。

琴櫻「悔しくないと言えばウソになる」

 大相撲は甘くない。

全ての写真を見る -3枚-
会員になると続きをお読みいただけます。
続きの内容は…
オリジナル動画も見放題、
会員サービスの詳細はこちら
特製トートバッグ付き!

「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています

photograph by Wataru Sato

0

0

0

この連載の記事を読む

もっと見る
関連
記事