「おつかれ生」の人と言えば、阪神ファンの間では、前一軍ヘッドコーチの平田勝男二軍監督を指す。2023年の日本一のビールかけで、アサヒビールのCMで流れるフレーズを口にして、チーム内外の笑いを誘った。ひょうたんから駒。後に同社のPR動画に出演してしまった。ユーモアセンスはチーム一。達人レベルのコミュニケーション能力で、岡田彰布監督の下でなくてはならない人だった。なぜなら、妙手に次ぐ妙手の采配の陰で、冗談のような本当の話が試合中に起きてしまうからだ。ほんの一例を挙げた。
「代打を使いそうな場面で『××ぐち』って聞こえてさ。ええ!? ってなるやろ。『ぐち』だけじゃ、原口(文仁)なのか、野口(恭佑)なのか、わからんやん(笑)。そんな時は『野口いくぞ』って岡田監督に聞こえるように、大きな声を出すんだよ。『違うやん』って言われなければ正解。『原口やんか!』ってなったら、代打を準備する水口(栄二前打撃コーチ)にごめんって。俺だって間違える時もあるよ(笑)。ドーム球場は本当に聞こえづらいんだから」
ヘッドコーチには、作戦や選手起用を進言するタイプもいるが、この2年間の虎には不要。なんせ、大親分は野球の裏の裏まで知り尽くす全能型の監督だったのだから。その上、情や不公平感を生まないように選手との対話を控え、細かい説明を一切省く昔気質とあれば、知略よりも組織の潤滑油となる人物が求められた。途中出場組を早めに準備させ、試合後は采配や発言の意図を汲み取って選手とコーチに伝えることが平田の仕事。エゴとプライドがぶつかり合うプロ集団を、裏でまとめる番頭だった。
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