数々の偉業を最年少で成し遂げてきた18歳は、今夏の大舞台、車いすテニスで史上最年少王者となり、最高の形で“第1章”を締めくくった。新章ではどんな物語を思い描いているのだろうか。(原題:[世界を変える18歳]小田凱人「唯一無二の自己表現」)
歓声があまりにも大きくて、頬を寄せ合うように話しているのに、二人は声を張り上げなくてはならなかった。パリ・パラリンピック・車いすテニス男子シングルス決勝が、幕を下ろした。小田凱人は、敗れたアルフィー・ヒューエットと言葉をかわしていた。観客で膨れ上がった1万5000人収容のコート・フィリップ・シャトリエ。車いすテニスで、この規模のスタジアムが満席になるのは極めて異例だ。かろうじて小田の耳に届いたのは、ヒューエットのこんな言葉だった。
「この空間は僕たちが作り上げたんだ。僕たちは驚くべきことを成し遂げた。車いすテニスの歴史に残るだろう」
車椅子ごと赤土コートに大の字「一番手でやりたかった」。
決勝は熱闘だった。最終セット、小田の3-5からドラマが始まった。ヒューエットにマッチポイント、あと1ポイント失えば小田の悲願は霧消する。だが、相手のドロップショットはラインを割った。踏みとどまった小田が試合をひっくり返した。
小田はラケットを放り投げ、ダンスを踊るように車いすをスピンさせた。次に、だれも想像しなかった行動をとる。車輪を外し、車いすごと倒れ込んだのだ。赤土コートで大の字になるのは、同じローランギャロスを会場に行なわれる全仏で14度優勝のラファエル・ナダルを真似たのか。だが、こんなやり方で喜びを表現した車いすの選手はいなかった。「一番手でやりたいなって思ってました」。してやったり、というように小田が笑った。倒れ込むところまでは事前に考えていたという。だが、ヒューエットが車輪を拾い上げ、起き上がる手助けをしてくれるとは思っていなかった。そうして、二人は熱く言葉をかわしたのだ。
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photograph by Takuya Sugiyama