サポートメンバーだった3年前の東京大会の経験を糧に、不動のエースとして日本女子卓球界を牽引する存在に成長した。2月の世界選手権団体では女王をあと一歩まで追いつめた24歳は自身初の大舞台を前にあらためて金メダルへの覚悟を語った。(原題:[打倒中国を見据えて]早田ひな「自信が確信に変わったとき」)
2016年の秋、初めて取材した16歳の女子高生は、ママチャリのペダルを漕いでいた。いや、正確に言えば、ペダルに足を乗せたと同時にふらついて、ジグザグ。無邪気に「ひゃ~っ」と叫んでいた。
「自転車、小さい頃は普通に乗れていたんですけどね。卓球に夢中になっている間に、乗り方を忘れちゃいました。日本生命の選手寮で生活するときは自転車で移動したいので、今、練習しているんです」
自称「マイペースで、ぽかーんとした性格」。ところがラケットを握った途端、少女は卓球界期待の星に変身した。左腕を豪快に振り抜けば、とてつもない速さでボールが卓球台を駆けた。練習場には右足で踏み込んだ際に床を鳴らす爆音が響いていた。
さっきまでの天然っぷりはどこへやら。思わず同行カメラマンと目を見合わせた。インタビュー中も、いざ卓球の話となれば、きりっと前を見据えた。
「今の段階では無理かもしれないですけど、自分なら中国に勝って、五輪でメダルを獲ることができると信じています。きっとチャンスはあると思うんです」
「大健闘」も「このままだと一生中国の選手に勝てない」。
あれから8年――。日本のエースに成長した早田ひなは、パリ五輪への切符を手に入れた。現地へ向かう数日前、ママチャリでよろけていた頃について話を向けると、照れくさそうに笑った。
「あの当時、『中国に勝てるようになる』と言っていたのは、あくまで想像の世界だった気がします。ガチで勝つと思っているのではなく、勝つ自分に憧れている、そこを目指しているという感覚。左利きであることとか、プレースタイルの可能性を踏まえて、自分に言い聞かせていました」
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photograph by Itaru Chiba