東京五輪・男子ストリートで金メダルに輝いた堀米雄斗。オリンピックという舞台で世界一になっただけでなく、本場アメリカのストリートシーンでも高く評価されてきた。あれから3年、多くのファンは、彼のパリ五輪出場、そしてメダル獲得を当たり前だと思い込んでいた。だが、その夢は風前の灯火となっていた。最後は大逆転でパリ切符を掴んだが、最終予選ではテレビなどでは伝え切れないドラマが起こっていた。現地で大会を取材したNumber編集部・雨宮圭吾が綴る全3回のドキュメントーー。<NumberPREMIERで #1、#3 も公開中>
86.40。
「おー、行ったあ」。
思わず声を出した堀米。深く深く息を吐き出す。日本代表の早川大輔コーチと笑顔でハイタッチを交わす。予選通過には十分なスコアだ。
「いやー、1本目で乗れなくてきつい感じではありました。一番最後の順番というのもあって2本目はすごいプレッシャーだったけど、ちゃんと滑り切れて、狙っている技も乗れました」
ジャッジの採点にも納得していた。
「これぐらい出るかな?と考えていた点数がその通りに出たのでよかったです」
いつも通りクールに振る舞おうとするのに、ミックスゾーンでも堪えきれずに笑みがこぼれる。それだけ嬉しかったのだろう。逆境をはねのけられた理由を「いつもはプレッシャーを楽しめないんですけど、今日はなんだか楽しめたからですかね」と語った。
今回の堀米はこれまでと違うのかもしれない。そんな予感を漂わせながら1つ目の関門を突破した。
とはいえ、まだ1つ目をクリアしたに過ぎなかった。
23号線のトラムから見た王者の必死
予選翌日、ストリート男子の競技はなかった。しかし、パーク種目やスポーツクライミングなどは会場で行われている。
市内中心部からドナウ川沿いを走る23号線のトラムに乗って会場に向かう。車窓から対岸にそびえるブダ城を眺めていると突然スケートパークが目に入った。向こう岸に渡る橋の下にあるパークは、周りの古風な街並みとは違い、派手な色のグラフィティに彩られたストリート感あふれるスポットになっている。ブダペストのスケーターはこんなところで遊んでいるんだなと思ったら、どこかで見かけたようなシルエットが目に入った。
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Keigo Amemiya