謝罪の言葉を伝えられて手を握り合っても、簡単に水に流せるわけじゃない。“歴史的和解”だと集まってくるメディアに向けて無理やり口角を引っ張り上げようとしても、強張った頬をどうすることもできなかった。
なんやろ、この感情。
山中慎介は心でつぶやいた。体内に刻まれていた記憶が一気にぶり返して、火照った感情が涙となってこみ上げたが周囲には悟らせなかった。
「別に憎しみっていうことではないと思うんです。ただ、目が合ってみて、あの目はやっぱり忘れられない。リングの上で戦ったときではなくて、計量のときに目が合った何とも言えない嫌な感じの……6年経っても気分は良くないっちゃ良くない。と思ったら、なんでか分からないですけどウルウル来てしまったんです」
3月6日、都内のホテルにおいて4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥が挑戦者ルイス・ネリを相手に5.6東京ドームで防衛戦を行なう発表会見が両者出席のもと実施された。日本での永久追放処分が解かれた“悪童”との再会。山中は興行のPRに一役買おうと会見に赴いてネリのもとに歩み寄ってみたのだが、割り切れない自分がまだいることに気づいて苦笑いするほかなかった。
「ドームでの盛り上がりに役立てたならそれはそれで良かったと思っています。でもアイツのことはやっぱり半分ジョークくらいにしないと話せない自分がいますね」
山中にとってネリとの対戦は負の歴史でしかない。1度目は禁止薬物の陽性、リマッチは前日計量において前代未聞の2.3kgオーバー。そのような相手に結果2連敗して後味悪い引き際を迎えなければならなかったのだから。
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