W杯本大会直前、誰もが驚いた主将交代劇だった。だが、指揮官の一か八かの英断は狙い以上の見返りをもたらした。それがまるで運命だったかのように、代表のキャプテンマークはその男の左腕に長く巻かれ続けることになる。
日本代表史上、最もキャプテンマークを巻いて試合に出場しているのは言うまでもなく長谷部誠である。
岡田武史、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチ、西野朗と5人の代表監督すべての信頼を得てキャプテンを務めた。年数にして実に8年、ピッチ上で陣頭指揮を執り続けてきた。「不世出のキャプテン」という称号に異論を挟む者はいないだろう。
しかしながら彼は生まれついてのリーダーだったわけではない。藤枝東高や浦和レッズ時代にキャプテン歴はなく、あの2010年の南アフリカワールドカップ直前に突如としてゲームキャプテンを託されたのがすべての始まりだった――。
「何よりもチームに“変える”ことを強調したかった」
2010年5月、岡田率いる日本代表はバッシングを目いっぱい浴びながら事前合宿地スイス・ザースフェーに向かった。
ワールドカップイヤーに入ってから精彩を欠くチームにはホームでも試合のたびにブーイングが起きるほどで、韓国代表との壮行試合も0-2で完敗していた。一向に上向いてこない流れを変えるため、大会2週間前の土壇場で岡田が動いた。
イングランド代表との強化試合に合わせて絶対的な存在だった中村俊輔を外して守備的な戦いにシフトし、楢崎正剛から川島永嗣に正GKを交代した。それだけにとどまらず、ゲームキャプテンを中澤佑二から長谷部誠に切り替えるという大バクチに打って出た。カメルーン代表とのグループステージ初戦まで時間が限られるなか、“そこまでやるか”の大転換。反転攻勢のために不退転の決意を打ち出した。
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photograph by Tsutomu Kishimoto