アイントラハト・フランクフルトの選手たちは、祝宴を催すべく街へ繰り出そうとしていた。
ヨーロッパ・リーグの準々決勝第2戦、敵地カンプノウに詰めかけた約3万人にも及ぶサポーターの前でバルセロナを打ち破った4月14日の夜のことだ。
パーティー好きの若手が喚声を上げる中、38歳のベテランがしかめっ面をしていた。ほかでもない。長谷部誠だった。
「クラブの了承を得て、チームで外で会食するという流れになったんですけどね。僕も若いときであれば、行かなきゃと思ったんですけど、コロナも心配だったし、今回ばかりは断固拒否したんです」
ところが、羽交い絞めにされて無理やりバスに担ぎ込まれた。わいわい大騒ぎだ。
「日本では考えられないと思うんですよ。若い奴が年寄りに無理強いするなんて。絶対に行かない! と言ったのに、連れて行かれちゃいました(笑)。なんだか、いまだにいじられる部分が残ってるんですよ」
行きたくなかった、10分で帰ったと言いつつも、その表情は間違いなく嬉しそうだった。世代の異なる者たちとの共存は、幾多の経験を重ねてきた38歳の心を若返らせている。
様々な人種、国、文化が存在する世界で、サッカーはあらゆる者が同等の条件で勝敗を争う競技として成立している。ヨーロッパの第一線で戦い続ける長谷部は、その厳しさと意義を深く認識している選手のひとりだ。
「僕は元々ピッチの中では年齢とかも関係なく意見を言うタイプなので、サッカーの部分では主張することの大変さは感じませんでした。ただサッカー以外では僕は日本人タイプですね。日々の生活ではそれほど主張はしないかな。こっちの人たちが主張し合ってぶつかっている土俵にはあまり乗らないようにしています(笑)」
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