かつてJ1とJ2を行き来してきたエレベータークラブがJリーグ参入28年目にして悲願の初タイトルを手にした。なぜ浦和との国立決戦で、秘策は機能したのか――。長谷部監督とMVPに輝いた前が、舞台裏を明かした。
勝者と敗者。そこに天と地ほどの差があることは論を俟たない。それこそ歴史が、人生が劇的に変わることすらある。やり直しがきかない一発勝負のそれなら、なおさらだろう。
生かすか、逃すか。
ネイビーブルーのシャツに身を包む無冠の一団にとって、まさしく千載一遇の好機だった。11月4日、東京の国立競技場で開催されたルヴァンカップ決勝である。
「絶対に勝つ、何がなんでも勝つ。それが試合前に一番強調したことでした。そうした気持ちをもって戦えばこそ、実力以上の力を出せる。そう信じていました」
アビスパ福岡を率いる長谷部茂利がそう振り返る。選手たちが「勝ちに対する執着がとても強い」と口をそろえる指揮官だ。こだわりの根っこに何があるのか。
「みんなに喜んでもらうこと。その一点に尽きますね。そして、喜んでもらうために絶対に必要な要素が勝つこと。負けてしまったら、よく頑張ったという労いの言葉をかけてもらえても、喜んではもらえない。選手はもちろん、福岡の方々、ファン・サポーター、スポンサー、チームスタッフ、このクラブに関わるすべての人たちに喜んでもらいたい。そのために勝つことが絶対に必要。だからこそ、徹底的に勝ちにこだわる。それが僕の根本」
就任1年目の2020年、エレベータークラブと揶揄されていた福岡をJ1昇格へ導くと、翌年にはクラブ史上最高成績となる8位へ。5年周期でJ1に昇格し、わずか1年でJ2に降格する〈負のサイクル〉を終わらせ、J1に定着させつつある。
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photograph by J.LEAGUE