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佐々木大地七段が語る藤井聡太との「夏」と「熱」<「酸素吸入器を鼻に入れた状態で戦った」9歳の記憶とは?>

2023/11/23
佐賀県嬉野市で行われた王位戦第4局は後がない佐々木が制し、地元九州で一矢を報いた
誰もが才能を認める青年がついに大舞台に立った。だが一度ならず、二度までも高い壁に跳ね返された「十二番勝負」の経験は彼に何をもたらしたのか。果敢に挑み、通り過ぎた熱く光る季節を振り返る。

 深い海に潜るんだ

 深すぎてブルーは消え

 青空も思い出となる

――ジャック・マイヨール

(映画「グラン・ブルー」より)

 

 早すぎる真夏日だった。

 まだ新緑の季節なのに、都心の最高気温は32.2度に達した。勝負が佳境に入る夜には現場の熱が体感温度を上げた。

 2023年5月18日、佐々木大地は王位戦挑戦者決定戦で羽生善治を破り、藤井聡太への挑戦権を手にした。

 磨き上げた宝刀、先手番相掛かり。羽生から激烈な集中砲火を自陣に食らったが、隅々まで親しんだ土俵の間合と耐久性は熟知していた。危険を見切って反攻し、勝利をさらった。4月24日に永瀬拓矢を下した棋聖戦挑決に続いて資格を得た。

 順位戦C級2組からの浮上を果たせていない27歳の青年が黄金の切符を両手に握ったのだ。1枚なら時として多少の幸運も手伝う。2枚目は本物の証明に他ならない。

 何かを予感させる急進の成果を挙げても、対局室の取材でも会見場でも佐々木は笑わなかった。棋士は勝って破顔する職業ではないが、追い求めた場所に初めて到達する時、心情は零れるものだ。主人公が若者ならば特に。

 誰に対しても朗らかな好漢である。酒席でも楽しい人だが、あの夜は不思議なくらい高揚を隠し、奇妙な平熱を発露していた。

 静かに進んだ会見の最後、私は尋ねる。

 棋界でいちばん熱い夏を送ることになりますが、夏という季節は好きですか――。

 文中の空欄を埋めようとするような問いをしたのは、目の前の彼が夢へと駆けていく季節は灼熱の記憶として刻まれてほしかったからだ。

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photograph by Japan Shogi Association

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